「えっ」

一瞬、聞き間違いかと思った。
赤屍さんを振り返ると、甘い香りのするケーキを切り分けているところだった。

「バナナケーキを焼いたので、おやつにしましょう」

「あ、はい。じゃなくて!」

この一週間の間にすっかり見慣れて当たり前になっていたその光景。
だが、いまは、心臓がゆっくりと鼓動を早めていく要素になってしまう。

「いま、帰らなくていいって……」

「帰る必要などないでしょう。私のいる所が貴女の居場所だ。違いますか?」

「そ、それは……でも……」

「仕事の心配なら要りませんよ。私が連絡しておきました」

「!?」

いったい、いつの間に。
いつから『そう』と決めて動いていたのだろう、この人は。
考えれば考えるほど怖くて堪らない。

「初めから、ずっとですよ。ずっと、こうしたいと思っていました。実際に行動に移したのは一週間前でしたが」

「そんな……」

思わず、後退る。

「逃げないで……酷いことなどしません。ただ、貴女を愛しているだけです」

赤屍さんがゆっくり歩み寄って来る。
背中が壁にぶつかった。
追い詰められた私を、赤屍さんが優しく抱き締めて、あやすように背中を撫でてくれる。

「よしよし、大丈夫、何も心配要りませんよ。愛しています、可愛いひと。ずっと私と一緒にいて下さいね」


別荘生活改め、監禁生活一日目。

バナナケーキは甘くてとても美味しかった。


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