ステンドグラスから斜めに差し込む光が、厳かに進む式を照らし出している。

今日この日を迎えられたことがまだ信じられない。
結婚が決まった日からずっと幸せな夢を見ているような気分だった。

「汝、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、敬い、慰め遣え、共に助け合い、その命ある限り 真心を尽くすことを誓いますか?」

「はい、誓います」

誓いの言葉をどうにか噛まずに言えたのでほっとした。
それくらいガチガチに緊張していたからだ。
隣に立つ蔵人さんが、わかっていますよというように片手で腰を支えてくれている。

「指輪を交換して下さい」

蔵人さんが私の手を取り、薬指に指輪を嵌めてくれる。
私もぎこちない手つきながら、何とか蔵人さんの薬指に指輪を嵌めた。

「それでは、誓いのキスを」

蔵人さんが私のベールを上げて、腰を抱くようにして私の身体を抱き寄せる。
二人の唇が甘く重なった。

至近距離で見る蔵人さんの顔に、ああ、これが二人が夫婦となった証のキスなのだとしみじみと感じて、思わず涙がこぼれ落ちる。
蔵人さんのしなやかな指が、涙の粒をそっと拭ってくれた。
これからもずっとこうしてこの人に支えられていくのだろう。
出来れば私もそんな蔵人さんを支えてあげたい。
ずっとずっと、一生二人で寄り添って生きていきたい。

「ここに、二人が夫婦となったことを認めます」

拍手に送り出されるようにしてバージンロードを歩いていく。

「おめでとう!」

「おめでとうございます!」

「お幸せに!」

祝福の言葉に笑顔を返し、蔵人さんと微笑み合う。
こんなにも幸せで良いのだろうか。

教会のドアが左右に開かれ、明るい白い光に包み込まれる。
眩しい。
足元が覚束ない。
なかなか外の光に目が慣れずにいる私を蔵人さんが抱き上げてくれた。
ライスシャワーを浴びながら、お姫様抱っこで教会の階段を降りていく。

それにしても眩しい。

目を開けていられない。


「おはようございます」

蔵人さんの声が聞こえて、ぱっちり目を開けると、そこは見慣れた寝室のベッドの上だった。

「気持ち良さそうに眠っていたので起こして良いものか迷ったのですが、今朝はこの前行きたがっていたカフェテリアで限定の朝食を食べると仰っていたので」

そうだった!
ニューオープンのカフェテリアの限定40食の朝食を食べに行く約束をしていたんだった。

「蔵人さん、いま何時ですか?」

「7時30分前ですよ」

「わあっ、すぐ支度します!」

ベッドを飛び出し、慌ただしく支度に取りかかった私を、蔵人さんが微笑ましいものを見る目で見ているのがわかる。
恥ずかしい!

「そういえば、どんな夢を見ていたんですか?」

「それは……」

甦るのは、ステンドグラスから差し込む光、
指輪。
甘いキス。
それから

「秘密です」

おや、と笑った蔵人さんの側を通って、顔を洗い歯磨きをするために洗面所に駆け込む。

良い夢は、誰かに話してしまうと叶わなくなるというから。

いつか、今度こそ、夢ではなく現実に彼と結ばれるために。
いまはまだ、私の胸の中にしまっておきたい。


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