「赤屍さんと結婚します」

そう赤屍さんに告げた時、零さんがどんな顔をしていたか覚えていない。
当然だ。
とてもじゃないが、つらくて零さんの顔を見られなかったのだから。

でも、これは零さんのため。

零さんにはこれからもずっと長生きをして幸せになってほしい。
私のことなど忘れて幸せになってほしい。

バージンロードを歩きながら、私は涙が滲み出ないよう必死に堪えていた。

祭壇の前には、白いタキシードを着た赤屍さんが待っている。
零さんの白いタキシード姿、見たかったなあ。
純白のウェディングドレスを着た私よりも、きっと遥かに美しかったに違いない。

赤屍さんの前に到着した私に向かって手が差しのべられる。
その手にそっと自分の手を乗せると、やんわりと引き寄せられた。
赤屍さんの隣に立った私の耳に、神父さんによる誓いの言葉が聞こえてくる。

「新郎赤屍蔵人、あなたはここにいるなまえを、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、妻として愛し、敬い、
慈しむ事を誓いますか?」

「はい、誓います」

赤屍さんは静かな声で答えた。

「あなたは今、赤屍蔵人さんを夫とし、神の導きによって夫婦になろうとしています」

神父さんが私に語りかける。

「あなたはここにいる赤屍蔵人を、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、妻として愛し、敬い、
慈しむ事を誓いますか?」

私が答えようと口を開いた時、突然、バン!という大きな音と共にチャペルの入口のドアが押し開けられた。

「なまえ!」

外の白い光を背に入って来た零さんが私の名前を呼ぶ。

「迎えに来たよ。もう望まない結婚なんてしなくていいんだ。俺と一緒に行こう」

「零さん!」

「おやおや。せっかく見逃して差し上げたのに、自分から死にに来るとは。見上げた根性ですね」

赤屍さんの腕によって、私は彼の後ろに押しやられてしまった。

「俺は死なない。なまえと共に生きると決めているんでね」

不敵に笑った零さんがファイティングポーズをとる。

「私に勝てるとでも?」

「やってみなければわからないさ」

いけない!この人は握力200kgを越える攻撃を片手で受け止めてしまう魔人なのだ。
零さんのパンチなんて、きっと軽くいなされてしまう。

「だめ!零さん逃げて!」

「逃げない」

零さんはぐぐっと拳に力をこめた。

「逃げる時は君も一緒だ、なまえ」

「零さん……!」

私は今すぐにでも零さんに駆け寄りたい気持ちを必死に抑えて、バージンロードで対峙する二人を交互に見比べた。

いくらなんでも無謀過ぎる。
だけれども、そんな無謀な賭けに出てまで私を取り戻そうとしてくれている零さんの気持ちが痛いほどわかった。

そして、赤い剣を出すでもなく、あくまでも素手で零さんを迎え撃とうとしている赤屍さん。
彼もまた誠実に私を想ってくれているのがわかってしまった。
私を手に入れるためには手段を選ばなかった赤屍さんが、今は零さんと真っ向から対峙している。

「なまえさんは渡しません」

「なまえは渡さない」

睨み合う二人。

私は、いったい、どうすればいいのだろう。



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