ドアをノックする音が聞こえる。 「可愛いなまえさん。このドアを開けて下さい。もう帰って来ているのはわかっていますよ」 「今日も一日お疲れさまでした。週の始めでしたから、さぞお疲れでしょう。一緒にお風呂に入って洗って差し上げますので、ここを開けて下さい」 「ルタオのドゥーブルフロマージュをお取り寄せしたんです。よく冷えている内に召し上がれ」 「お仕事、大変ではありませんか?ぼくが養いますので、お仕事は辞めてぼくのところに来て下さい。貴女はただぼくの側にいてくれればいい」 初夏だというのに頭から布団を被ってぶるぶる震えているのだが、声は一向に止まない。 「可愛いひと。もう我慢出来ません。力ずくでも連れて行きますよ」 すぐ近くから聞こえた声に悲鳴をあげる。 ドアは開いていないはずなのに、何故。 翌朝。 出勤して来なかったなまえを心配して同僚が部屋を訪ねて来たが、そこにはもう誰もいなかった。 |