「なるほど」

赤屍さんは薄く微笑んで言った。

「貴女は私が犯人だとおっしゃるのですね」

一瞬で辺りの空気が変わった。
私にはそれが肌で感じとれた。
体感温度が下がったせいで寒気がする。

「では、犯人らしく、皆殺しにしてしまいましょうか。貴女以外の全ての人間を……ね」

「そんな……!」

「そうすれば、貴女は私だけのものになるでしょう?」

赤屍さんの手の平からぐぷりと赤い剣が出現したのを見て、私は後退った。

赤屍さんは本気だ。
本気で皆のことを……。

次の瞬間、ガキン!と金属同士がぶつかり合う音が響き、私は誰かの手によって後方に押しやられていた。
煉獄さんだ。
煉獄さんが赤屍さんと刃を交えている。

「煉獄さん!」

「逃げろ!」

銃声が聞こえたと思うと、煉獄さんが刀で抑えている赤屍さんの頭部にぽっかり穴が開いていた。
少し遅れてそこから血が勢いよく溢れ出す。

「ぐずぐずするな。早く逃げろ」

尾形さんだった。
尾形さんが愛用の銃を構えて赤屍さんに狙いをつけている。

「チッ……化け物かよ」

じゅるじゅると音を立てて赤屍さんの傷が塞がっていくのを見た尾形さんが舌打ちする。
続けざまに銃弾が撃ち込まれ、赤屍さんの身体がゆらりと蠢く。

「逃がしませんよ」

赤屍さんが一歩前に進み出た途端、彼の周囲に火柱が立ちのぼってその歩みを押し留めた。
骸の幻術だ。

「長くは持ちません。早く彼女を」

「君に任せた、降谷くん」

ライフルを携えた赤井さんが、私の背をとんと押して降谷さんのほうへ押しやる。

「彼女を連れて逃げろ」

「くっ……!」

「さあ、早く行くんだ。ここは俺達で食い止める」

降谷さんは悔しげに顔を歪めたが、すぐに私の手を取って走り出した。

「走れっ!」

背後から凄まじい音が聞こえてくるが、降谷さんが振り返ることを許してくれない。
見てしまったら立ち止まざるを得なくなることを知っているからだ。

降谷さんは駐車場まで走ってくると、私を助手席に押し込んで自分も直ぐ様運転席に乗り込んだ。
息をつく間もなく、タイヤが軋むほど激しい勢いで車が走り出す。

緩やかな坂道を猛スピードで駆け上がっていく車の窓からそっと後ろを伺うと、まだ火柱が上がっているのが見えた。

みんなまだ戦っている。
みんなまだ生きている。

でも、いつまで無事でいられるだろう。
最強最悪との呼び名も高い不死身の魔人を相手に。

私はぐっと涙をこらえた。

「降谷さん……どこへ?」

「どこまでだって逃げてやるさ。君を奴に渡したりするものか。……絶対に」

ハンドルを握る降谷さんの表情は厳しい。

どうしてこんなことになってしまったのだろう。

私が、私の選択が間違っていたから……?


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