過去の恋愛にとらわれる女性は少ないらしい。 新しい恋をするたびに記憶が上書き保存されていくのだそうだ。 逆に男性はというと、過去の想い出にご丁寧に元カノの名前入りのラベルを貼って、後生大事に保管し続けるのだとか。 目蓋が下ろされて綺麗なペールグリーンの瞳が見えない今なら、赤井さんの精悍な顔立ちを直視出来る。 果たして、彼の記憶の中にはそうしてファイリングされた記憶があるのだろうか。 あるんだろうな、やっぱり。 私が知る限りでは二人。 到底忘れられそうもない女性達がいることを知っている。 この唇で、愛を囁いたりしたのだろうか。 したんだろうな、やっぱり。 イギリス生まれでアメリカでの生活が長い彼のことだから、いま私にしてくれているようなことを彼女達にも。 …いやいや、考えるのはやめよう。 「でも、いまは私だけのものですからね」 「その通りだ」 少し掠れた甘い低音に即座に肯定され、彼の顔を撫でていた手がぎくりと止まる。 「眠れないのか?」 綺麗なペールグリーンの瞳が悪戯っぽく輝きながら私を見上げていた。 「では、そうだな。俺がいかに君を愛しているか、じっくりレクチャーしてやるとしよう」 あっという間に上下が逆転して、赤井さんの身体の下に組み敷かれてしまう。 抵抗なんてする暇もなかった。 「まずは、キスから始めようか。これは君だけのための特別製だ」 |