あと一時間ほどで日没だ。
この本丸ではその前に夕餉を食べることになっている。
台所を覗くと、光忠と歌仙が忙しく立ち働いていた。
ここまでいい匂いが漂ってくる。

「ごめんね、まだなんだ」

光忠がすぐに私に気付いてそう言った。

「お腹がすいたなら味見していくかい?」

「うん」

手招かれて素直に台所の中に入る。

「また君はそうやって甘やかして…」

歌仙には呆れられてしまったが、気にせず光忠にくっつくように彼の側にいく。

「今日はハンバーグにしたから付け合わせににんじんのグラッセを作ったんだ。食べてみて」

「うん、いただきます」

「はい、あーん」

「あーん」

にんじんのグラッセを食べた拍子に光忠の指が唇に触れる。
指はそのまま愛おしげに唇をなぞってから離れていった。
私が見ている前で、光忠がその指を舐める。

「ごちそうさま」

「みっ、光忠…」

「僕を選んでくれたら、毎日美味しいものを作って、どろどろに甘やかしてあげる。君が蕩けて僕しか見えなくなるまで、ね」

私は逃げるようにその場から駆け出した。

「僕を選んでくれるって信じてるよ」

光忠の声が追いかけてくる。
それは今食べたにんじんのグラッセよりもずっと甘くて、切なくなるような声音だった。


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