真夜中を少し過ぎた頃、微かに聞こえてくる音に雨音が加わった。 雨が建物の屋根や地面を叩く音。 「寝ないともちませんよ」 医者らしく身体を気遣う言葉を耳元で囁いた赤屍の腕が背後からなまえの腹に回される。 彼に、後ろから抱きしめられる。 少し低めの体温を感じて心地よい。 包み込まれてしまうような、安心感。 「眠れないなら強制的に眠らせてあげましょうか」 目の前にいる鬼灯が言った。本気の顔だ。 そうだ、この男は鬼だった。 なまえはぶんぶん首を振って拒否した。 背後で赤屍がクスッと笑う。 「では早く寝なさい」 「はぁい」 お母さんか、と思ったが鬼灯は怖いので大人しく目を閉じた。 すると、前にいた鬼灯に抱き寄せられる。 息づかいが近い。 鬼灯の匂いと体温を感じる。 赤屍と鬼灯。 この二人に挟まれて眠るのは奇妙な感覚だった。 安心するようでいて、落ち着かない。 落ち着かないようでいて安心感がある。 眠るのが勿体無いような気さえする。 「貴女が眠るまでこうしていてあげますよ」 「またそうやって甘やかして……貸しなさい、それなら私が」 前後からぎゅむぎゅむと抱きしめられて少し苦しいが幸せだ。 「おやすみなさい、なまえさん」 「おやすみなさい、なまえさん」 ほぼ同時に聞こえた声におやすみなさいと返して、なまえはゆっくりと眠りの淵に落ちていった。 |