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「おいで」

私のほうへ身体を向けて軽く両腕を広げてみせた。
着流しの足はあぐらをかいていて、傍らには先ほどまで読んでいた文庫本。

ちょっと恥ずかしかったけど、拒否を許さない眼差しに促されて彼の膝の上に腰を下ろす。
そうすると、彼は満足そうに私の頭を撫でた。

「恭弥さん」

「たまには甘やかしてあげようかと思って」

嫌かい?と尋ねられて慌てて首を振った。
嫌なわけがない。

「そう」

匂いたつような色香を纏って彼が笑う。

「今日は気分がいいんだ。優しくシてあげるよ」

…何故だろうか。
不穏な囁きに聞こえたのは。


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