「見事な消失ショーでご婦人方は少々驚かれたのではありませんかな?どうぞ美しい花で心を落ち着かせて下さい」

いつの間にかステージにプラチナブロンドの紳士が立っていた。
握りの部分が蛇の頭の形をしたステッキを持ち、片手に次々と花束を取り出しては客席の女性達へと渡していく。

「貴女には花は必要ないでしょう」

なまえの前に跪くと、紳士はそう言って微笑んだ。
どうやら仕込み杖になっていたらしいステッキの蛇頭の部分を握って中から杖を引き抜き、なまえに向かって突きつける。
次の瞬間、なまえはふんわりとした花びらのようなシルクの美しいドレスに身を包まれていた。

「貴女自身が何よりも美しい華なのですから」

紳士は優雅になまえの手を取り、そっと口付けを落とした。



一連のショーが終わり、客席は割れんばかりの拍手で賑わっていた。
ステージの上に再び赤屍が現れる。

「如何でしょう?我々のショーは楽しんで頂けましたでしょうか?」

拍手を上回る歓声がそれに答える。
赤屍は微笑んで片手を横にさしのべた。
その方向から赤いビロウドの布で覆われた箱が運ばれてくる。

「それでは、最後にもう一つだけ魔法をお見せ致しましょう」

赤屍の目がなまえを見た。

「それにはお客様にお手伝いして頂く必要があります。どうぞ、こちらへ──」

赤屍が手を差し出し、なまえをステージに引き上げる。

「大丈夫、何も難しいことはありません。貴女は箱に入ってのんびり立っていて下さるだけで良いのですから、ね」

安心させるように微笑んで赤屍はなまえを箱の中へと導く。
箱の中には人ひとりが入れるだけのスペースがあり、なまえの身体はすっぽりとそこに収まった。

「さあ、皆さん。こちらの勇気あるお嬢さんに拍手を」

客席から励ましの拍手が上がり、なまえは今更ながら緊張を感じた。
赤屍がクスッと笑い、なまえに向かってなにごとか囁きかける。
だが、客席からの拍手で何を言っているかまったく聞きとれない。

「え?」

聞き返そうとした途端、目の前が赤い布で覆われてしまった。
赤屍が布を箱にかけたのだ。
ドラムロールの音が鳴り響き、スポットライトの灯りの中で箱がぐるりと回される。

シンバルが鳴った瞬間、さっと布が取り払われた。
観客が息を飲んで身を乗り出す。
箱の中になまえの姿はなかった。
そして、赤屍の姿も。

無人になったステージに目を見張る客達。

そして、全ての照明が落とされ、辺りはたちまち暗闇に包まれた。

悲鳴で満ちた暗闇に。



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