素早く血まみれのボックスが片付けられると、次は漆黒のローブにマントを纏った魔法使いの登場だ。
黒いカーテンの如く顔の両側に垂れた黒髪の間からは髪と同じ色をした目がギラギラと光って客席を睨めつけていた。
その目が客席にいたなまえに止まり、薄い唇が笑みに歪む。

「そこの…そう、君だ。ステージに上がってきたまえ」

猫撫で声がなまえを呼んだ。
仕方なく、ステージに上がり、男の前に立つ。

「我輩はセブルス・スネイプ。今から彼女の心の秘密を暴いてしんぜよう…」

スネイプはなまえを客席に紹介し、低く呟いた。
そうして正面からなまえの眼を見つめる。
なまえも緊張しつつスネイプの顔を見つめ返した。

「ふむ……」

スネイプが指で自らの唇を撫でる。

「なるほど。君は少々被虐趣味があるようですな」

「そっ、そんなことありません!」

なまえは真っ赤になって叫んだが、スネイプは構わず続ける。

「男に束縛され、骨の髄まで愛し尽されたいと思っている──そう、追いかけ回され、捕まって、狂気的に愛されたいと願っているようだ」

スネイプはほくそ笑んだ。

「しかも、密着する体位で抱かれるのが好みらしい。対面座位などはいかがかな?是非我輩がお相手して…」

「いやーっ!!」

なまえはステージから逃げ出した。


獲物に逃げられたスネイプが舞台袖に消えていくと、代わりに背の高い青年が現れた。
ルビーのような色の瞳を持った彼の足元には恐ろしく巨大な大蛇がまとわりついている。
それを見た観客席の女性陣は震えあがった。

青年の前には最初に出て来たようなボックスが置かれており、ボックスの正面は鉄格子がはまっていて、中には一頭の虎が蹲っていた。

「それでは」

青年が静かに微笑んだ。
大蛇への恐怖を忘れて客席の婦人達がその微笑の冷ややかな美しさに感嘆の溜め息を漏らす。

「今からこの獣を魔法の呪文で消し去ってみせましょう」

青年が杖を取り出し、ぴたりと箱に狙いをつけると、虎は急に落ち着かない様子で暴れ始めた。

「…アバダ・ケダブラ!」

青年の声とともに杖から不気味な緑色の閃光がほとばしる。
虎は緑の光に包まれたかと思うと、硬直して動かなくなった。

青年が軽く杖を振る。
すると、虎は跡形もなく消えてしまった。
静まりかえっていた客席が、虎が消えた瞬間、思い出したように拍手で湧き立った。
不安そうに顔を見合わせていた婦人達もほっとして笑顔に戻る。
そう、なんといってもこれはマジックショーなのだ。

青年が優雅に礼をし、スポットライトが消える。
再びスポットライトが当たると既に青年の姿はなく、一匹の黒猫が舞台の袖に向かって歩いていくところだった。



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