バジルとは最初は手紙で、なまえが携帯とパソコンを買ってからはメールでずっと近況などを伝えあってきた仲だった。
なまえのバジルに対する親愛の情は限りなく肉親に対するそれに近い。
父・家光の一番弟子でなまえとは歳も同じということもあり、なまえは彼を遠く離れた場所で暮らすもう一人の兄弟のように感じていた。

(それにしても…)

バジルが視線を前方に向けたのを見て、なまえはそっとその顔を見つめた。

(本当に綺麗になったなぁ、バジル君)

こうして横から見ると睫毛が長いのがよく見てとれる。
髪の長さはやはり昔と同じくらいで、肩のラインより少し長いくらいだったが、それでも決して軟弱な優男には見えない。
細身の引き締まった身体にダークスーツがよく似合っていた。
サラサラの金茶の髪はなまえよりもずっと髪質が良さそうに見える。

「そんなに見つめられると照れてしまいます」

バジルが前を見たままちょっと笑った。
心なしか頬のあたりが色付いて見える。

「あ…ご、ごめんなさい」

「いいえ」

車内に沈黙が落ちた。
お互いに相手を意識しているのに意識していないふりをして、窓の外を流れていく景色を眺める。

車はいつの間にか郊外へ出て、森のような場所を走っていた。

「この先にボンゴレの本拠地があります」

バジルが言った。

「説明はされていると思いますが、日程は一週間。その間はずっと城内にて秘書業務を学んで頂くことになります。移動のときは必ず護衛である拙者がお供しますので、お一人では部屋から出ないようにして下さい」

「うん、お父さんに聞いてる。忙しいのに有難う。一週間よろしくお願いします」

「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします」

なまえを見たバジルは少し安心したように笑ってみせた。

「拙者に出来ることなら何でもお手伝いしますので、どんなことでも気軽に言って下さい」

「うん、有難う。バジル君がいてくれて凄く心強いよ」

「そう言って頂けて拙者も嬉しいです。本当はオレガノ殿が──」

バジルがハッとしたように口を閉じる。
なまえはぱちくりと瞳を瞬かせながら彼を見た。

「どうしたの?」

「……いえ……」

口ごもったバジルは、窓の外の森に目を走らると、実は、と切り出した。

「親方様は、はじめ、同じ女性のほうが良いだろうとオレガノ殿を護衛につけられるお考えだったのですが、拙者が志願して護衛をさせて頂くことになったのです」

「え…それって、」

「あ、城が見えてきましたよ!」

バジルに言われて前方を見る。

そこには美しくも荘厳な雰囲気を持つ古城が佇んでいた。
なまえがこれから一週間暮らす場所、ボンゴレファミリーの本拠地である。

車はその中に飲み込まれるようにして入って行った。



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