ボンゴレ幼稚園では今日も血で血を洗う争いが繰り広げられていた。
子供達が怯えて遠巻きに見守るなか、水色のスモックを着た三人の園児が火花を散らしている。

「馬鹿じゃないの、君。なまえは僕と結婚するって決まってるんだよ」

並盛町の暴君との呼び名も名高い、丸く形の良い頭をした黒髪の凛々しい男の子の名は雲雀恭弥。

「ハッ! これだから蛆虫どもは困る。あの女はな、名にXの称号を二つ持つ男、このザンザスの子供を生むと決まってんだ、ドカスが!」

凶悪凶暴を絵に描いたようながっしりした身体つきの鋭い目付きをした男の子は、ザンザス。

「変態ですね、君。今から孕ませる気満々なんですか。さすがの僕もドン引きですよ。というか、なまえさんと結婚するのは僕です」

敬語で話す柔らかな物腰の、けれど背筋が寒くなるような独特の雰囲気を持つ男の子の名は六道骸。

そして、それを止めに入ることも出来ず、他の子供達と一緒に震え上がっているのは、この幼稚園の教諭である沢田綱吉だ。
実は彼らの話題となっている人物は、同じくこの幼稚園の教諭を勤める綱吉の双子の姉なのだが、間の悪いことに彼女はいま買い出しに出掛けているのだった。

いつもはなまえが間に入って直ぐにおさまる言い争いも、止める人間がいないせいで徐々にヒートアップしつつある。
非常にまずい事態だ。
綱吉はこの恐ろしい幼児達の凶悪さをよく知っている。
知っているが、しかしそんな彼らよりももっと恐ろしい人物が真っ直ぐ綱吉に銃口を向けて「さっさとシメろ」と二階の窓から睨みをきかせているので、綱吉は仕方なく懐柔作戦を開始した。

「あ、あの…せっかくの休み時間なんだから、皆仲良く遊──」

「はぁ?」

ザンザスにギラリと睨み据えられ、綱吉はひいっと身を竦めた。

「どうやら話しても無駄のようですね」

骸が三叉槍を構える。
雲雀も銀色に輝くトンファーを、ザンザスも2丁拳銃をそれぞれ取り出した。

「クフフ…いきますよ」

「咬み殺す」

「かっ消す!」

その時、ガラリと音がして正門が開かれ、エプロン姿の小柄な女性が園内に入ってきた。
綱吉の姉のなまえだ。
三対の瞳が弾かれたように同時にそちらを見る。

「みんなー、おやつ買ってきましたよー」

彼女は持っていた買い物袋を掲げて微笑んだ。
蜂蜜色の髪が、白いエプロンが、太陽の光を受けてキラキラと明るく輝く。

「ほら、恭弥君も骸君もザンザス君も、お手て洗ってきてね」

「うん」

「はい」

「俺に指図するな」

三人は我先に水道に向かって走って行った。



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