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「零くん、ただいまー」

「お帰りなさい、なまえさん」

零くんに笑顔で出迎えて貰える喜び、プライスレス。
もしも仕事から帰ったら零くんがいなくなっていたらどうしようといつも考えているから、こうして彼の顔を見ると安心する。
出来れば、零くんが元の世界に帰る時には私も立ちあいたい。きっと泣いてしまうだろうけど、ちゃんとお別れの挨拶をしたいのだ。

「今日はお土産を買ってきました」

そう言って片手に提げていた袋を零くんに差し出す。

「じゃーん!ビールと焼き鳥です!」

「ビールですか?」

「はい、明日はお休みだから晩酌に付き合って下さい」

「なまえさんがそういうなら」

向こうの世界ではいつ何どき事件が起こるかわからないからのんびりお酒なんて飲んでいられなかったはずなので、ここにいる間くらいは楽しんで欲しいと思ったのだ。
そんな私の気持ちを汲んでくれたのか、零くんは素直に応じてくれた。

「その前にまずはお風呂に入ってきて下さいね」

「はーい」

お風呂から上がると既に夕食が並べられていたので、お礼を言って食べ始める。
和洋中何でも作れる零くんだけど、やはり一番は和食という点で私達の好みは一致していた。日本人であることに誇りを持っている零くんらしいチョイスの献立を食べ終えると、零くんが焼き鳥とビールを出してくれた。零くんの前にも同じものが並んでいる。

「缶ビールで晩酌なんて久しぶりです」

「今日は今までの分も楽しく飲もうね」

「そうですね……ありがとうございます」

乾杯をしてぐいと一飲み。はあ、身体に沁みわたる。労働の後の一杯はやはり堪らなく美味しい。

「零くん、お酒強そう」

「まあ、酔うと色々まずいのでそれなりには」

「若い時は、って今も若いけど、昔はどうだった?」

「人並みには飲めましたよ」

「じゃあ、もう一本いけるよね」

「僕を酔わせてどうするつもりですか」

苦笑しながらも零くんは私が差し出した缶ビールを受け取った。
強いだろうとは思っていたけど、顔色も変わっていないのは凄い。

「出来れば、僕はあなたを酔わせてしまいたいですけどね」

もう充分酔っています。零くんという、この世で一番素敵な男性の存在に。

もちろん、冗談でもそんなことを言えるはずもなく、私は笑って缶ビールの残りを飲み干したのだった。

「明日の朝はシジミ汁が必要かな」

零くんの言葉に、確かにそうかもしれないと思いながら、焼き鳥を肴に私は新しい缶ビールを開けた。


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