日曜日の夕方。普段なら明日は月曜日ということもあって憂鬱になりがちだが、零くんが来てからというもの、毎日が充実しているから月曜日も怖くない。 「ごちそうさまでした。美味しかったです」 「どういたしまして。本当に美味しかったね」 今日は零くんを連れて、最近出来たばかりだというお店で食事を済ませたところだった。 いつも家事を頑張ってくれている零くんへのお礼と、一向に帰れる気配がないことに対して焦りが目立ち始めた彼に気晴らしをさせてあげたいと思っての外食だった。 無国籍というか多国籍というか、各国の良いとこ取りをしたような創作料理のお店で、雰囲気も良く、堅苦しくなくリラックスして食事を楽しむことが出来た。 「少し歩きませんか」 「もちろん、いいよ」 零くんと並んで歩きながら、他愛のない話をした。 最近話題になっていることだとか、仕事であったことなどを話していると、ふと零くんの手に手が触れた。 「あ、ごめ」 「ちょうど良かった。こうしたいと思っていたんです」 そう笑って零くんが指を絡めるようにして私の手を握る。こ、これは恋人繋ぎというやつでは? 「嫌でしたか?」 「う、ううん。嫌なわけないよ」 「良かった。嫌われてしまったら悲しいですから」 そのまま歩いていたら、「あの人カッコいい」「安室さんに似てない?」などという声が聞こえてきた。 「なまえさん。僕は」 零くんが何か言いかけた瞬間、辺りの景色ががらりと変わった。文字通り、一瞬にして全く違ったものへ変化していたのだ。 「えっ、えっ?」 「ここは……杯戸町?戻って来たのか」 零くんが呟く。そんな、まさか。 「降谷さん!」 零くんを呼ぶ声が聞こえ、そちらを見れば風見さんが走って来るところだった。 零くんの表情が引き締まり、公安の降谷零のものへと変わる。 「風見、今日の日付けと時間は?」 「え、はい、11月10日の午前11時ですが」 「僕が向こうの世界でなまえさんと出逢う直前の日付けだ。全く時間が経っていないということか」 冷静に現在の状況を確認する零くんとは違い、私はまだ呆然としていた。 「風見、少し待っていろ。なまえさん、こちらへ」 風見さんをその場に待機させて、零くんは私を連れて近くの喫茶店に入った。 「ここで待っていて下さい。なるべく早く戻って来ます」 私の手を握り、しっかりと目線を合わせて零くんが言った。 「僕が戻るまで何処にも行かないで下さいね」 そう釘を刺してから零くんは喫茶店を出て行った。風見さんと合流して公安の仕事をしに行ったのだろう。 とりあえず落ち着かなければ。 零くんが一瞬の内に私がいた世界へ移動させられたのと同じように、私も一瞬の内にこちらの世界へ来てしまったということなのか。 問題はこれからどうするかだ。 この世界に戸籍を持たない私は仕事や住居を見つけるのも難しいだろう。 そこは零くんに手を貸して貰うしかない。 出来るだけ迷惑はかけたくないけどこればかりは仕方がない。 とりあえず、今日のところはホテルに泊まるかどうかして、明日からのことはそれから考えよう。 「お待たせしました」 紅茶を二杯飲み終えたタイミングで零くんが喫茶店に入って来た。 「まずは買い物に行きましょう。服や身の回りの品が必要でしょう」 「えっ、あの、でも」 「この日が来るのをずっと待っていたんです。あなたがそうしてくれたように、今度は僕があなたのために尽くす番だ」 どこか嬉しそうに零くんが言った。 「買い物をして、それから僕達の家に一緒に帰りましょうね。なまえさん」 零くんが私の目を見ながら手を握る。 絶対に逃がさない、というように、しっかりと。 |