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「美味しいです!」

「それは良かった。お口に合ったみたいで嬉しいです」

ハムサンドをぱくぱく食べる私を見てにっこり微笑む零くん。
いったい誰がこんな日がやって来ると予想出来ただろう。
夢のようだが夢ではないし、零くんの立場を考えれば悠長に喜んでばかりはいられない。一日でも早く元の世界に帰る方法を探してあげなければ。
しかし、その前に問題があった。

「とても申し訳ないのですが、これから仕事に行かなければならないんです」

「それは社会人としては当然のことでしょう。僕はこれで失礼しますので大丈夫ですよ」

「そのことなんですが、元の世界に戻る方法が見つかるまで、この家を拠点にして行動するというのはいかがでしょうか」

「しかし、それは」

「零く、降谷さんが信頼出来る警察官だということはわかっていますから、私のほうは全く問題ありません。むしろ、外で『安室の女』に見つかるリスクが怖いです。絶対騒ぎになりますし、そうしたら警察が来て職務質問されるかもしれません」

「確かにそうなると困りますね。いまの僕には身分を証明する方法がない」

「だから、これも何かの縁と思って私を頼って下さい。零く、降谷さんと同居なら大歓迎ですよ」

「ありがとうございます。心苦しくはありますが、正直なところそう言って頂けると助かります」

「じゃあ、決まりですね」

私は零くんに手を差し出した。

「初めまして。苗字なまえです。改めてこれからよろしくお願いします」

「降谷零です。こちらこそよろしくお願いします、なまえさん」

零くんが私の手を握り返してくれる。

「それから、僕のことは『零くん』で構いませんよ」

「す、すみません」

さっきから言い間違えていたのがバレていたようだ。だって、本名がわかった時からずっと零くんって呼んでたから、つい。

いつまでも零くんと話していたいけれど時間は待ってはくれない。
出勤時間が迫っていた。

「またパソコンをお借りしてもいいですか?もう少し調べたいことがあるので」

「好きなだけ使って下さい。昼食は冷蔵庫の中にあるものを使って構いませんので、しっかり食べて下さいね」

「ありがとうございます」

「じゃあ、なるべく早く帰ってきます」

「はい、行ってらっしゃい。気をつけて」

「行ってきます」

この世に零くんに行ってらっしゃいと送り出されたことのある女が他にいるだろうか。私は感動にうち震えながら仕事に出掛けた。


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