玉章達が到着後、程なくして大会議が行われる広間の中は恐ろしげな容貌をした妖怪達で一杯になった。 怖がりの人間が見たら気絶しそうな光景である。 この場にいる者達はいずれも名のある里の主達で、リクオや玉章のように多くの妖怪達を手下として従えている組の頭領、つまりボスクラスの妖怪達だ。 当然、和やかに談笑して和気あいあいと会議の始まりを待つ…などという事があるはずもなく、おどろおどろしい空気の中には緊張感が張りつめていた。 皆リクオの真意をはかりかねて警戒していると言った感じだ。 同じ国に棲む妖怪と言っても、普段から交流があるわけではない。 こんな形で招集されなければ一同に会する事など無かっただろう。 それを実行したリクオはすごいとなまえは素直に感心したし、改めてそれほど深刻な事態なのだということを実感した。 そのリクオは、上座の一段高い場所にしつらえられた席に静かに座している。 玉章となまえは上座のリクオから見て左側の列に案内されて座っていた。 「中部陰刻組若頭、手負い蛇様ご到着ー」 また新たな妖怪が到着したことを知らせる声が広間に響く。 ぞろりと室内に入って来たのは、身体の中程あたりから中身が無くて骨だけになっている大蛇の妖怪だ。 その妖怪は玉章のすぐ左隣に座った。 天井付近には三本足の大きなカラスがいる。 このヤタガラスもやっぱりサッカーが好きなんだろうかとなまえはぼんやり考えた。 青いユニフォームを着たヤタガラス様のほうは、我が国の味方が守る網には鞠を入れてはいけないと気付いてくれてからはご活躍されていて何よりだ。 そういえば、サッカーどころかテレビも暫く観ていない。 人間としての生活では重要な情報収集手段の一つであったそれは、久万山での生活とは無縁のものだったからだ。 羽衣狐が復活した時には京都で騒ぎになっていたそうだし、もしも普段からテレビを観ていたら、きっと『古の都で続発する謎の怪現象!』みたいな番組を目にする機会もあっただろう。 実際には、そういった情報は玉章の配下の妖怪からの報せで知ったのだが。 「どうぞ」 なまえの目の前にお茶が置かれた。 見れば、隣の玉章の前にも同じように湯気を立てる湯飲みが置かれている。 「ありがとうございます」 礼を述べると、接客担当らしいウェーブが掛かった豊かな長い髪を持つ女妖怪は、にっこりと微笑んでまたお茶を出す作業に戻っていった。 出来れば少し話してみたかったが、こんな非常時に、しかも人妻である自分が気軽に他の組の者と世間話をするわけにもいかないので我慢した。 というか、隣で睨みをきかせている旦那様がそんなことはとても許してくれそうにない。 これが終わったら、しがらみや因縁など関係なく、奴良組の妖怪達とも仲良く出来る日が来るのだろうか。 そう考えたところで、広間の中のざわめきが唐突に消えて静まりかえった。 遂にリクオが口を開いたのだ。 |