リクオについて宝船に乗り込んだ妖怪は三人。

玉章に続いて乗り込んできたなまえを見てリクオは一瞬驚いた顔をしたが、彼女が自分は玉章の右腕代わりなのだと告げると、「そうかい」と笑ったきり、大丈夫なのかと問いただしてくる事もなかった。

もう一人は知らない妖怪だ。
奴良組の屋敷で初めて顔を合わせた、酒呑愚連隊の若頭だという妖怪だった。
喧嘩が好きそうというよりも、面白そうだからついてきたといった感じだ。
こちらは何を考えているのかいまいち掴めない。

「玉章さん、寒くありませんか?」

「ああ、大丈夫だよ」

もう一枚羽織る物を持ってくれば良かったと思いながら尋ねれば、玉章の腕に抱かれた犬がクウーンと鼻を鳴らした。
震えている様子はないから、この子も寒がってはいないようだ。

人数が少ないこともあり宝船の中は静かなものだった。
仲良くお喋りするような仲ではないという理由もある。

「お嬢ちゃんは四国の主の嫁さんかい?」

「え、あ、はい、そうです」

さっきまでグビグビ酒を呑んでいた妖怪に突然声をかけられ、驚きながらもそちらに向き直った。
胡座をかいて座った男から夜風に乗って酒の匂いが流れてくる。

「へえぇ…じゃ、四国の妖怪なのか?」

「ええ…まあ…」

本当は少々複雑な生まれなのだが、間違いではないので曖昧に言葉を濁した。
なまえの出生はリクオと少し似ている。
祖母が治癒能力を持つ人間だったのだ。なまえもその力を受け継いでいる。
今までは事情があって人間として人間の高校に通っていた。
その事は玉章も玉章の父親も承知している。

「ところで先代の隠神刑部狸の玉袋は千畳敷って話で有名だが、旦那のはどうだい?やっぱデケェのか?」

「わ、わかりませんっ。確かに大き…いえ、大きさ形も普通だと思います、けど」

「馬鹿だね。酔っ払い相手に馬鹿正直に答えるんじゃないよ」

玉章に呆れたように言われて、それもそうだとはたと気付いた。
思わず反射的に答えてしまったものの、素直に答える必要などない質問だ。

「四国八十八鬼夜行総代の嫁さんだと言うからどんな女怪かと思えば、まだまだウブな嬢ちゃんじゃねぇか、なぁ?」

「酔っ払いの戯言だ。一々相手にしなくていい」

「うう…」

よしよし、と玉章に宥められるが、どうしようもなくいたたまれない気持ちになってしまう。
玉章の後ろに隠れるようにして彼の着物の右袖をきゅっと握り、まだ赤い顔のままキッと睨みつけてはみたものの、酔っ払いはカラカラと笑ってみせただけだった。
明後日の方角からフッと笑う声が聞こえてくる。リクオだ。

「なんだ、ちゃんと夫婦らしく見えるじゃねぇか」

「フン……やっぱり来るんじゃなかったかな」

鼻を鳴らしてそっぽを向いた玉章の陰からリクオと視線を合わせ、なまえはくすぐったそうに笑った。


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