「玉章さん、寝間着に着替えますか?」

「いや、このままでいい」

着替えるなら手伝おうと思ったのだが、もしかすると今夜は寝ずに過ごすつもりなのかもしれない。

「じゃあ、飲み物ここに置いておきますね」

なまえは持って来た風呂敷の中からペットボトルを取り出し、封を切ってテーブルの上に置いた。

「こっちは明日の朝ごはんです」

車内販売がないので事前に用意しておいたお弁当や手拭いをさくさく並べていく。

「なまえ」

呼ばれて振り返ると、こちらをじっと見つめている玉章と目が合った。
手荷物はそのままテーブルの上に置き、すっかり定位置となった彼の右側に腰を下ろす。

「怖いかい?」

「いいえ。玉章さんがいるから平気です」

なまえは玉章の肩口に頬を寄せて瞳を閉じた。

「四国も八十八鬼夜行も、玉章さんが守ってくれるって信じてますから」

肘の少し上あたりからばっさり斬り落とされてしまっている彼の右腕。
浮世絵町での闘いで失われた右腕。
これからまたあの町へ行く。
そこでの話し合いの結果いかんによっては、四国へ戻る事なく、すぐに御門院との闘いに参戦することになるのだろう。
いや、間違いなく玉章はそのつもりでいるはずだ。

「だから、玉章さんは私が守ります。絶対に死なせません」

玉章の残された右肩から二の腕のあたりまでをそっと撫でる。

「君に守られるほど弱くはないけどね」

そう言いながらも、玉章は優しい手つきでなまえの髪を梳いた。


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