浮世絵町へは前にも利用した事がある寝台特急を使う事になった。
やはり乗り換え無しで東京まで行けるという利点が大きい。

他の妖怪達は玉章が手配した長距離大型トラックで関東まで行き、現地で合流する手筈になっている。
何しろ急ぎという事で、日数をかけて遥々関東まで行脚をさせるわけにはいかなかったのだ。

前回浮世絵町へ向かうためにこの寝台特急に乗車した時は、義父と奴良組の大将がツインで、なまえは若い娘だからと一人でシングルを使わせて貰った。
今回は夫婦二人(と一匹)だから当然ツインを一つ予約しているとばかり思っていたのだが。

「えっ、シングルを二つ取ったんですか?」

「ツインじゃ狭いだろう」

「まあそうですけど…」

よく見ると、両方デラックスだ。
お坊っちゃまめ。でもまあしょうがないかとなまえは苦笑した。

「一緒には寝てあげられないよ。狭いからね」

「わ、分かってます」

意地の悪い笑いを浮かべる玉章の後ろについて車内へと乗り込む。
ホームに人影がまばらだったからそうだろうと思っていたが、やはり乗客は少ない。
時期外れだからかなと思いながら、なまえは車内の壁に設置されたボードで入口の鍵のかけ方と開け方を確認した。

「荷物を置いたらおいで」

「はい」

玉章の部屋は真向かいだ。
なまえは自分の個室に入った。
入って右手にテーブルと椅子があり、左側にベッド。
ベッドの上には部屋着とスリッパも用意してあった。
前に使った普通のシングルとは造りが違う。
そんなに段違いに広いというわけではないものの、寝台特急にしては余裕のある造りになっているのではないかという気がした。

「よいしょ」

持って来た鞄はとりあえず椅子の上に置き、飲み物などを入れた風呂敷包みだけを持って部屋を出る。
念のためナンバーロックで施錠してから目の前のドアに向かって声をかけた。

「玉章さん」

「入っていいよ」

鍵はかかっていなかったらしいドアを開けて中に入る。
玉章はベッドに腰掛けていた。
なまえの姿を見て、ドッグケージの中の子犬がクウーンと悲しげな鳴き声をあげる。

「よしよし、良い子にしててね」

なまえは宥めるように微笑み、椅子を引いて座った。


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