朝起きてすぐ、逃げ出すように部屋を出た。

今更ながら急に恥ずかしくなってしまったのだ。
どんな顔をして玉章におはようを言えばいいのか分からない。
昨日は何か変な事をしてしまわなかっただろうか、緊張のあまりおかしな事を口走ってしまったりして呆れられてやしないだろうかと心配だった。

ついでにお手洗いに行った帰り、部屋に戻るに戻れずこれからどうしようと廊下で困っていると、使いを頼まれたらしい豆狸がやって来て、お湯の用意が出来ていますのでどうぞと言ってくれたので有りがたく使わせて貰うことにした。


湯殿には、昨日と同じくあたたかな湯気がほわほわと漂っていた。
今日は世話係の女達はおらず、一人きりだ。

こんなに大きなお風呂を一人で使わせて貰うのは何だか申し訳ない気がしながら、桶で湯を掬って身体にかける。
熱い湯が気持ちいい。

まずは髪を洗い、それから石鹸を泡立てた手拭いで身体を洗おうとして、ふと気が付いた。
胸や腹や太ももにくっきりと残る、赤い刻印。
自分では見えないが、たぶん首筋にも同じ印が刻まれているに違いない。

思い出したのは、布団の上に突っ伏し、尻だけを高く上げさせられた己の姿。
上からのしかかる男に、敷布団の布地をぎゅうと握りしめる手を上から押さえられ……──

「〜〜〜〜!!」

頭の中に浮かんだ映像をかき消そうと、なまえはぶんぶん首を横に振った。
なるべく見ないようにしてごしごしと身体を洗う。

そうして、そろそろ湯船に浸かろうと立ち上がった時だった。
…とろり、と何かが太ももの内側を伝い落ちたのは。

「え………あっ、」

みるみる内に顔が赤く染まっていく。
脚の付け根、昨夜初めて他人の目に晒した場所から、白濁した体液が溢れ出したのだ。

「ど、どうしよう…」

どうしようと言っても、やるべき事は一つしかなかった。
このままではお湯に浸かれないし、放っておいたらまた後から出てきてしまうかもしれない以上、自分でそこを洗うしかない。
そろりと指を伸ばして確かめてみると、まだ奥に残っているのが分かった。
羞恥に震えながらも片方の手でそれを掻き出し、桶に汲んだ湯を使って洗い流していく。
そして、あらかた洗い流し終えたところでほっと安堵の息をついたなまえの耳にその声は聞こえてきた。

「掻き出してしまったのかい?」

ぎゃあ!と叫んだつもりが、実際には声になっていなかった。
自分の腕で自分を抱きしめるように胸元を隠してうずくまる。

「た…玉章、さん…」

「悪い子だ」

まだ白い着物を着たまま立っていた玉章が、妖艶な笑みを浮かべながら左腕で自らの腰に緩く巻かれた帯を解く。

「またたっぷり注いであげないといけないね」


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