人生の転機というものは、いつ訪れるか解らない。
天音にとってのソレは、高校の帰り道、自宅の裏山にある神社に寄った時に起こった。

御参りをして、いざ帰らんとしたその時。
突然境内の真ん中が輝き始めたと思うと、次の瞬間にはその闇のような光の渦の中に引きずりこまれていて、真っ暗な空間を物凄い勢いで落ちていっていたのだ。

『闇のような光』というと矛盾して聞こえるが、本当にそう表現するのが一番近いシロモノだった。
紫色の闇のようで、それでいて光輝いていたのだ。
あんなものはこれまでの人生で見た事がない。

気がつくと、天音はいつの間にか見知らぬ場所に座り込んでいた。

そこが戦国時代によく似た別世界であると知るのは、もう少し先の事になる。
そして、“ここ”へ来た事で自分の身に起こっていたある変化についても。

とにかく、いつ戻れるのか──いや、そもそも本当に戻る事が出来るのかさえ定かでない以上、何とかしてこの世界で生き抜いていかなければならない。

その点、天音は幸運に恵まれていた。
最初に出会って色々事情を聞いたりこちらの事を教えてくれた人物が非常に世話好きな良い女性だったのだ。

夫とともに街道で茶屋を開いているその女将さんの元で働きながらご厄介になるということで、天音はこの世界での生活拠点と働き口を同時に手に入れることが出来たのだった。

あるいはそれも全て何者かによって仕組まれていたことだったのかもしれない。


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