とりあえず他に客がいない乾物系が並ぶ通路に移動し、完全に彼女の姿が見えなくなったのを確認してから天音は溜め息をついた。

「もう……年下のカノジョにお兄ちゃんって呼ばせてる変態だって噂されても知らないよ」

「構わないさ。全く事実無根というわけでもないしね」

「妹とデキてるって噂されても?」

「勿論だ」

半兵衛は涼しい顔で笑った。

「君を愛したときから、とっくに覚悟は出来ている」

カートと自分の間に天音を挟み込むようにして、半兵衛はその美しい顔を寄せてくる。
相変わらず唇には微笑を浮かべてはいるが、瞳は怖いくらい真剣だった。

「君もいい加減覚悟を決めたほうがいい」

「お…お兄ちゃ…」

「僕から逃げられると思わないでくれ」

思わず目を閉じると、唇のすぐ脇にちゅっとキスされた。
その柔らかい感触に胸がときめいたのは仕方のない事だろう。

「今日はこれで許してあげるよ」

からかう声でそう言って笑い、半兵衛は天音から身を離した。

どうやら着信が来ていたらしく、真っ赤になってキスをされた場所を手で押さえている天音の前で内ポケットから携帯電話を取り出し、「やあ、秀吉」などと話しはじめる。
勿論、携帯を持ってきていないというのは嘘だ。

「大丈夫、こっちは何ともないよ。天音と買い物に来ているところだ。そう、天音が僕のために料理を作ると張り切っていてね。さっき大学時代の知り合いに偶然会ったんだが、一緒に暮らしている女性として紹介したら喜んで甘えてくるんだ。もうすっかり新婚夫婦みたいなものだよ」

「お兄ちゃんの嘘つき!」



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