「お兄ちゃん、今まで買い物とかどうしてたの?」

「ネット注文で自宅配達、だね、食料品関係は。ちょっとした物なら仕事帰りに買う事はあったけど」

確かにこの美貌の兄がスーパーマーケットの中で買い物カゴを提げて歩いている姿を想像するのは難しい。
いわゆるギャップ萌えと言えるのかもしれないが。

そして今その光景が現実のものとなっていた。

ご近所の奥様方とおぼしき女性達がうっとりした視線を投げかけてくる中、買い物カゴを乗せたカートを押している半兵衛を引き連れて天音は食品売り場を歩いていた。

「ちなみに、サプリメントはご飯の内に入らないからね」

「…栄養はちゃんと摂取出来ているはずだよ」

「ダメ。だってお兄ちゃん、放っておくと三食サプリメントとかにしちゃうでしょ」

「時間も節約出来るし丁度いいんだけどな」

「ダメです。体質改善食の本も買ったし、これからは私がちゃんとしっかり栄養がある物を食べさせるから覚悟して」

「ふふ、頼もしいね」

美しい兄に甘く微笑まれて、うっかり赤くなりかけてしまったが、何とか気を取り直し、野菜をぽいぽい買い物カゴに入れていく。
当然良い物をちゃんと選別してのことだ。

小学生の時から忙しい母の代わりに家事をこなしていたため、悲しい程に主婦顔負けの家事スキルが身についているのだった。

食材では特に好き嫌いはないものの、油っこいものや味が濃いもの、辛いものなどが苦手だという半兵衛のために、あっさりした味付けの料理を考えながら材料を選んでいく。

「うーん…やっぱり和食メインになるかなぁ……お兄ちゃん、お魚は平気?」

「ああ、問題ない」

「じゃあ次は魚売り場に──」

カートの進路を決めて次のコーナーに進みかけた時、二人の背後から「竹中君?」と、女性の声がかかった。

後ろを振り返ると同時に、兄の顔に浮かぶ柔らかな表情が作り物のそれへと変わる。

さながら仮面を被るかの如く。

他人から見れば全く分からないだろうその微妙な変化の瞬間を、天音は感覚で理解した。



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