私の兄の三成は、唯一敬愛する存在である婆裟羅学園の理事長・豊臣秀吉の事となると暴走特急なみの大暴走を始める。
少しでも秀吉先生に対して不敬に値すると判断すると怒り出すのだ。
妹の私に対して容赦がない。

今回兄がキレたきっかけは、バレンタインのチョコレートについてだった。
私はいつもお世話になっている秀吉先生に義理チョコを渡そうと考えていたのだが、『義理』という響きが気にくわなかったらしい。
秀吉先生に対して失礼だというのだ。

「貴様、我が妹とはいえ許さんぞ!」

「うるさい秀コン!」

「なんだそれは」

「マザコンとかシスコンとかと一緒。秀吉先生が大好きすぎってことだよ!」

「そうだ。秀吉様こそ唯一にして至上のお方。貴様もようやく解ってきたようだな」

「もうやだ! お兄ちゃんのばかっ!! キョロちゃんのクチバシみたいな前髪のくせに!!!」

「貴様は私を怒らせた!!!!!」


**


「それで三成君と喧嘩したのかい」

「喧嘩なんかじゃないです」

きちんと膝に揃えて置いた自分の手の甲を見下ろしながら私は断固主張した。

「お兄ちゃんが勝手にキレて怒ってるんだからお兄ちゃんが悪いんです」

「君達兄妹は本当に見ていて飽きないよ」

頬杖をついて私を楽しそうに眺めていた竹中先生がくすくすと涼やかに笑う。

私はこの人が苦手だ。

竹中先生は婆裟羅学園の理事長秘書で、兄ともども彼にはお世話になっているのだが、秀吉先生に対する心酔ぶりといい、どうも兄と同類の匂いがして仕方がない。

どうしてそんな苦手な人と一緒にいるかというと、兄と喧嘩した後一人で町を歩いているところに突然竹中先生が現れ、有無を言わさず車で拉致されたからだ。
連れて来られた先は彼の自宅で、「何があったか話してごらん」と促されたため、兄とのやり取りを説明したのだった。

たぶん兄から連絡を受けて心配してくれたのだろうが、強引すぎる。

銀髪の男はヤンデレ。
異論は認めない。
私は心の中でそう認定した。
根拠は兄の三成と竹中先生と保健医の明智先生だ。

しかし、そうなると元親までヤンデレになってしまう。
さすがにそれは気の毒なので、特別にアニキは例外ということにしておこう。
私は心の中で元親を別枠に分けてあげた。
彼を兄達と同じくくりにするのはいくらなんでも可哀想だ。

──いや、待てよ。

彼らの共通点は銀髪じゃなくて──

「そうか、闇属性がヤンデレなんだ!」

「誰がヤンデレだって?」

竹中先生に笑顔で頬を引っ張られた。


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