「三成君は不器用な男だ」

竹中先生が言った。
眼鏡の向こうに見える目が笑っている。

「興味のない人間にはとことん冷徹で無関心だが、少しでも心を許した相手には感情を剥き出しにして接する。その温度差というか、態度の違いはかなり極端だとは思うけど」

「極端すぎます」

「そうだね」

竹中先生は小さく笑って続けた。

「だから、大切に思う君には自分と同じように感じて欲しいんじゃないかな。秀吉を崇めろというのも、君に同じ気持ちを共有して貰いたいがゆえの行動なんだと思うよ。無理強いするのはどうかと思うけど、不器用な彼なりの愛情表現なんだろうね」

それは分かっている。
分かっているけど、やはり理不尽だと感じてしまうのだ。

「勿論、君の気持ちは解るよ。そんな事を押し付けられたら理不尽に感じて反発してしまうのも無理はない。彼には僕からよく言っておくから、許してあげてくれないか」

優しく諭され、俯いていた私は小さな声で「はい」と答えた。
兄も大概大人げない人だが、自分も少し子供じみた反抗の仕方をしてしまったという自覚はあったので、その点は素直に反省しなければならない。

テーブルの上には手つかずのままの紅茶。
きっともう冷めてしまっているに違いない。

ふと空気が動く気配がして目の前に何かが置かれた。
顔をあげると、チョコレートケーキが乗った皿が目に入った。

「チョコレートは嫌いじゃないだろう?」

「はい」

でもどうしてハート型なのか。
気になるけれども怖くて聞けない。

「バレンタイン仕様だったらしくてね」

まるでこちらの心を読んだように竹中先生が言った。

「一番美味しそうなチョコレートケーキを選んだらこれだったんだ」

確かに美味しそうではある。
色からして濃厚なチョコレートの味を想像させる色をしているし、適度にしっとりしているのだろうなと見て分かるほどだ。
さあお食べと笑顔で促されて私はフォークを握った。

「いただきます」

「うん」

竹中先生の視線を感じながらケーキにフォークを入れる。
すると、さくりと切り取った部分から、外の生地とは少し違う色合いのチョコレートがとろりと流れ出した。

「あ……フォンダンショコラ?」

「そうだよ」

私はフォークで取ったケーキを口に運んだ。
フォンダンショコラは中身にチョコレートを詰めるため、自分で作るとなると温度調節が難しい。
これはさすがに市販のケーキだけあって、そのあたりも絶妙なようだ。



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