佐助に案内されたバサレンジャーがザビー城に向かっていた頃。
天音は既に城の中にいた。
隙を見て逃げ出そうと思ってはいるのだが、残念ながらなかなかそう上手くはいかない。

(これ…全部チョコレート…?)

城内や中庭に立ち並んでいる奇妙な像は、どれもチョコレートで作られたものらしかった。
彫像はどれも皆同じカッパ頭の男だったが、キューピッドのような格好でハート型の弓矢を構えていたり、半裸でしどけなく横たわっていたりと、形は様々だ。
たぶんこれがザビーという人物なのだろう。

「元就さん…どうしてこんなことを……」

天音は悲しげな表情で元就に訴えた。

「バサレンジャーの皆もきっと心配していますよ」

「フン…奴らは所詮捨て駒よ」

元就が冷たく言い切る。

「我を理解出来るのは、この世に我とそなただけで良い。これからは共に愛に生きようぞ」

「ええええええええええーーっっ!?」

思わず叫んでしまった。
元就にこんな顔でこんな台詞を言わせるなんて、ザビー様とやらはこの人にいったい何をしたのだろう。
これがマインドコントロールというものだろうか。
苛烈な拷問を受けた末に「愛が全て!」と叫ばされる元就の姿を想像して天音はゾッとした。

「元就さん!元就さん!しっかりして下さい!正気に戻って!!」

「我はかつてないほど正気ぞ。ザビー様が我が目を開いて光溢れる世界へ導いて下さったのだ。今の我にはこの世の全てが日輪の如く光輝いて見える」

「目が虚ろ!!!!」

天音は後退った。

「そなたのようなか弱い女子に何が出来る」

「も…元就さん…」

「諦めよ。何処にも逃げられぬ」

元就は冷静にゆっくりと距離を詰めてくる。

「案じる事はない。そなたはこの城で愛の女神としてザビー様と我らにチョコレートを作り続けてくれれば良いのだ」

さあ、と手を伸ばしてきた元就のその手の先がもう少しで天音に触れようとした瞬間。
空気を切り裂いて飛んで来た何かが二人の間に割って入り、元就が後ろに飛び退いた。

「彼女から離れたまえ、元就君」

凛とした男の声を耳にした天音が顔を輝かせる。

「軍師仮面さま…!」

不気味な彫像が立ち並ぶ通路の真ん中に、純白の陣羽織を身に纏う細身の男の姿があった。



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