「あのね…例えば、A君とBさんという友達がいたとして、A君はBさんのことが好きなんだけど、BさんはC先生が好きだっていう場合、二人の友達としてはどうするのが一番いいと思う?」

「ああ、佐助君とかすが君のことか」

「ち、違うよ!A君とBさんだよ!」

「残念ながらA君の想いが報われる望みは薄いだろうね。BさんはC先生に夢中だ」

「やっぱりそうかなぁ…」

「君が思い悩むことはないよ。どちらかから頼られたら、その時は友人として話を聞いてあげればいいんじゃないかな」

「うん……そうだね、そうする」

天音はすっきりした顔で頷いた。
きっかけはアレだったし、ちょっとドキドキしたけど、半兵衛に相談してみて良かった。

「実は僕も悩んでいることがあってね」

「半兵衛が?」

天音は瞳をぱちくりさせて半兵衛を見た。

「どんなこと?私で良かったら話してみて」

半兵衛がテーブルを回り込んで内緒話をする距離に身を寄せたので、天音も同じ分だけ彼のほうに近寄って座った。

「子供の頃から仲が良くてずっと一緒に育ってきた、幼馴染みの関係のA君とBさんの話なんだが」

「うん」

「A君は小さい頃からずっと傍にいるBさんのことが好きだったんだけど、Bさんはどうも少しトロいというか鈍い子でね。初恋もまだの、恋愛感情に疎い女の子だった。その結果、ライバルに奪われる心配はせずに済んだものの、A君としてはかなりもどかしい想いをすることになった」

「うん」

「A君は自分の想いを告白することでBさんを怖がらせてしまうんじゃないかと思い、ずっと想いを胸に秘めたまま言えずにいた」

「うん」

「だからまずは、家族や周りから攻めていくことにした。彼女を逃がさないように、外堀から埋めることにしたんだ。時間をかけて、じわじわとね」

「…うん」

「ところがある日、A君は眠っているBさんにキスをしてしまった。もう我慢の限界だったんだ」

「……」

「彼女は小さい頃、彼のお嫁さんになると約束していた。彼はその約束を信じてずっと待っていたんだ。でも、もう待てない」

優しいだけの世界はあの日に壊れてしまった。
半兵衛の手が天音の頬に触れ、そこを愛おしげに撫でる。

「僕のお嫁さんになってくれるんだろう?」

「…そんな小さいときの約束よく覚えてたね」

困ったように微笑む天音の額に半兵衛は自分の額を寄せた。

「君との約束を僕が忘れるはずがない。それに、君から言い出した事だという言質が取れた瞬間だからね」

眼鏡が顔に当たる。
半兵衛もそれを邪魔に感じたらしく、片手でつるの部分を持って外した。
天音の目に飛び込んできたのは、鮮やかな紫。
半兵衛の綺麗な顔が近づいてきた瞬間、天音は少し震えたが、おずおずと目を閉じた。

まず吐息が。そして、次に柔らかい唇が触れて重なる。

ちゃんと起きているときにした初めてのキスだった。


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