「ああ、やっぱりここにいたんだね、天音」

片手をドアに掛けた半兵衛が、教室の出入口に立っていた。
廊下の反対側にある窓から差し込む光が、彼を背後から白く照らして出している。

「かすが君を連れて行っていたから、もしかしてここじゃないかと思ったんだ」

どうやら半兵衛はかすがが上杉先生から準備室の鍵を預かっていることを知っていたようだ。
彼は天音に微笑んで小さく首を傾げてみせた。

「こんなところで佐助君達と何を話していたんだい?」

「え、と…」

「そりゃ勿論、人目につかない場所で女の子とすることって言ったら決まってるでしょ。聞くだけ野暮ですよ、ってね」

「ばっ、気色の悪い事を言うなッ」

かすがに頭をどつかれてヘラヘラ笑う佐助に、半兵衛は微笑を顔に貼り付けたまま冷ややかな眼差しを向けていたが、すぐに天音へと視線を移して柔らかな口調で言った。

「そろそろ戻らないと午後の授業に遅れてしまうよ」

「あ、うん」

あたふたと荷物をまとめながら佐助とかすがを見る。

「先戻ってていいぜ。俺様はかすがともう少し話して行くから。二人きりでねー」

「だから、お前はッ!どうしてそういう言い方ばかりするんだ!」

かすがを残して行くのは心配だったが、「行くよ」と半兵衛に手を引かれて天音は教室から連れ出されてしまった。



「ありゃ、何の話をしてたか気付いてたね、間違いなく」

残された二人は、それぞれ天音と半兵衛が出て行ったドアを眺め、やれやれとため息をついた。

「それにしても、厄介な男に惚れられたもんだねぇ、天音ちゃんも。涼しげな顔してるけど、ああ見えて結構嫉妬深くて独占欲強いよ、竹中の旦那は」

怖い怖いと肩を竦めた佐助を、かすがは呆れ顔で睨んだ。

「お前は協力する気があるのか無いのか、どっちなんだ?」

「そりゃあ、ありますよ勿論。大事な友達だから、天音ちゃんには幸せになって欲しいじゃない」

「そうだな…」

そう呟いたかすがは、佐助の言葉に含みがあることに気付かなかった。


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