危機一髪の状況だったせいもあり、その反動で村人達は未だ勝利の余韻冷めやらぬ様子だった。
祭りでもはじまりそうな盛り上がり様である。
この分では落ち着きを取り戻すにはまだ暫く時間がかかりそうだ。

「村の人達は無事でしょうか?」

「どこかの誰かの無謀と紙一重の活躍のお陰で怪我人は出なかったようだよ」

チクリと刺すように嫌味を言われる。
咎める眼差しで見られた天音は、そうですかと微笑んだ。

「良かった。これで、『男衆を兵として差し出して宿や食料まで提供したのに豊臣軍は我々を見捨てた!』なんて文句を言われずに済みますね」

「おや、善意からの行動ではなく計算だったのかい?」

「半兵衛さんには私がそんな良い子に見えますか?」

「勿論。君はとても優しい良い子だよ」

本当かなとかえって疑わしくなるような優しげな声音で誉めた半兵衛が、煙に包まれた林に目を向けて笑う。

「それにしても、煙責めとはね……林の中にいた野盗共はさぞかし地獄の苦しみを味わったことだろう。君は時々僕でも驚くような実にえげつない策を思いつくね」

「とんでもない。半兵衛さんには負けますよ」

「可愛くない子だ」

ふふと笑った半兵衛の顔から、ふと表情が抜け落ちるように消えていった。
その目は相変わらず林へと向けられたまま、しかし、ここではない遠くを見つめている。

「……時間がないと、人は急いて見苦しくなるんだよ、天音」

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