全ては一瞬の内に終わった。

野盗の断末魔の叫び声が途中で途切れる。

天音はそれを半兵衛の背中越しに聞いた。
視界を埋め尽くしている白と紫は、彼の戦装束とマント。
半兵衛の背に庇われていたため、野盗の最期は見ずに済んだ。

「やれやれ……手のかかる子だね、君は」

嘆息した半兵衛が刀を収めながら振り返る。
視線が検分するようにさっと天音の身体を撫でた。

「怪我はないかい」

「はい大丈夫です。有難うございました、半兵衛さん」

「礼には及ばない。それより、状況を説明してくれ」

「あれ?伝令の人に聞きませんでしたか?」

「野盗に襲われたということだけしか聞いていない。悠長に子細を聞いていたら間に合わなかっただろうね」

心配で飛んできたわけではなく、瞬時に冷静に判断しての行動だったのだろうと納得して、天音はこれまでの事を半兵衛に説明した。

「山菜を取りに行っていた村の人が、山向こうで野盗が村を襲う算段をしていたのを偶然発見したんです」

悪巧みを聞いた村人は急いで村にとって返して村長にそれを報告したのである。
その時、村長の屋敷に身を預けられていた天音と、彼女の護衛として半兵衛が残していった数人の部下もその場にいたのだが、話を聞いた天音はすぐにその一人を半兵衛のもとに向かわせたのだった。
しかし、相手は戦の真っ最中のはずである。

「何人か助っ人として兵士の人を貸してくれないかなと期待して伝令を頼んだんですけど、まさか半兵衛さんが来てくれるなんて思いませんでした」

「予想よりも早く片付いたからね。君は運がいい」

それに、野盗に気付かれる前に対策を立てられたのは幸いだった。



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