「薪を集めてきて下さい! 出来るだけたくさん!」

天音の呼びかけにより、小さな村の住人達は総出で竹林の手前に浅く穴を掘り、その中でかき集めてきた薪を燃やした。
煙はすべて風下にある竹林の中へ流れこんでいく仕組みだ。
しかもただの煙ではない。
村の家々から唐辛子などなるべく刺激が強そうな物を集めて火にくべてあるので攻撃力が倍増している。

そして、その竹林の中にはこちらへ向かう途中の野盗達がいた。

「な、なんだ、これは…!」

「うわああ! 目が…目があぁ…!」

煙が充満しつつある竹林の中からは、怒りと苦痛に満ちた悲鳴や激しく咳き込む声、それに覆い被さるようにして馬のいななきが聞こえてくる。

それが徐々に聞こえなくなってきたことを確認すると、天音はずっと詰めていた息を大きく吐き出した。

戦いに“絶対”はない。
今更ながらに危険な賭けをしたのだという実感がわいてきて身体が震えた。

撤退させたことを喜んでいる村人達の歓声も、一歩間違えれば阿鼻叫喚の地獄と化していたかもしれない。
そう思うと手放しでは喜べなかった。

「天音様!」

緊迫した呼び声にハッと振り返ると、林の中から何とか這い出してきた男が一人。
大きな太刀を片手に血走った目で天音を見据えていた。

雄叫びをあげた男が太刀を振りかぶったと同時に、天音の視界は白と青紫で埋め尽くされた。



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