怒声と苦悶の叫び声。 そしてそれらをかき消すかの如く、刃と刃が激しくぶつかり合う金属音が平原に響き渡る。 「全兵士に告ぐ!」 満身創痍で土ぼこりにまみれて戦っていた兵達の耳に、突如として凛とした男の声が飛び込んできた。 決して大きくはないのによく通るその声の持ち主は、白い戦装束を纏い仮面をつけた細身の男だった。 「君達の主君は既に倒れた」 男の言葉通り、その足下には彼らの主である武将が倒れ伏している。 倍以上も体格の違うこの男が斬り捨てたのだと知り、兵達は激しく動揺した。 その隙を男が逃すはずもない。 「降伏したまえ。豊臣に降れば命だけは助けよう」 予想を遥かに越えて呆気なく終わったな、というのが、豊臣軍の参謀竹中半兵衛の感想だった。 戦場となった平原から少し離れた高台。 その高見から全体の様子を見下ろす彼の眼下では、被害状況の確認に怪我人の救護と、豊臣の兵士達が無駄のない動きで働いている。 この戦で討ったのは、名門一族ではあるが武人としては無名に等しい武将だった。 豊臣秀吉には天下を取らせぬと豪語し、向こうから戦を仕掛けてきたのである。 いかなる者であっても、秀吉に刃を向ける人間は許さない。 それが羽虫の如き相手であっても、半兵衛は容赦なく叩き潰すつもりでいたし、実際にそうしてきた。 今回も同じことだ。 「た、竹中様…!」 やや焦った様子で伝令の兵が走ってくる。 さては残党がいたのかと考えた半兵衛だったが、それはまったく予想外の報せだった。 「申し上げます! 補給路の要としていた村が野盗の襲撃を受けたとの事です!」 白く端正な顔に驚愕が走る。 数瞬の間の後には半兵衛は愛馬の背に飛び乗っていた。 |