宍戸くんは自宅からわざわざ自転車を飛ばして来てくれた。
しかし、彼によると心当たりがないということだった。

「近所とか親戚とかは?」

「あー…そういや、親戚のじいさんが昔飼ってたって聞いたような…」

「最近、その親戚のおじいさんのとこ行った?」

「この前法事でな。じいさんはもう亡くなってて、今はばあちゃんしかいねぇんだ」

「…ごめんね」

「気にすんな。必要なことなんだろ?」

宍戸くんは爽やかな笑顔を見せた。
彼を兄貴分として慕う後輩くん達の気持ちが分かったような気がする。

「おばあさんの家に行けないかな?それか、写真を借りてきてくれたらわかるかも」

「今からなら直接行くか?こっから近いぜ」

結局、全員でお邪魔することになった。
黒猫はずっと宍戸くんの足元について歩いている。
氷帝からそれほど遠くない所にあった宍戸くんのおばあさんの家にお邪魔すると、謎はすべて解けた。

仏壇に飾ってある写真。
宍戸くんのおじいさんは宍戸くんにそっくりだった。
いや、宍戸くんがおじいさんによく似ているのだ。

おばあさんは、宍戸くんが友達を連れてきたことに喜び、さりげなく私が水を向けると、おじいさんが飼っていたという「タマ」という名前の黒猫の写真を見せてくれた。
それは間違いなく宍戸くんにくっついている黒猫だった。

「タマはおじいさんの事が大好きでねぇ。亡くなってからも、ずっと家の前に座って、おじいさんが帰って来るのを待ってたんですよ」

おばあさんが懐かしそうに話してくれたタマの話に、鳳くんは瞳に涙を滲ませ、宍戸くんは「そうか」とタマがいる辺りに視線を向けた。

でも、問題はここからだった。

タマは家に帰らなかったのだ。

すっかり宍戸くんが気に入ってしまったらしく、おばあさんの家を出た時に一緒についてきてしまったのだ。

「どうする…?」

「どうするって言われても…なぁ?」

タマは宍戸くんの家には帰れない。
どうも犬が相当苦手らしい。
そうなると、タマは部室に居ついてしまうことになる。

「成仏とかはしねぇのか?」

「うーん…成仏とはちょっと違うけど、思い残す事がなくなったらちゃんとあるべき形に戻ると思う」

「それまではこのままってことか」

「そんな…そんなの可哀想ですよ…!」と鳳くんがまた涙ぐむ。
彼は本当に猫が好きな優しい子のようだ。

「分かった。この件は俺が預かる。悪いようにはしねぇから心配するな」

跡部くんが言った。

それでその日は解散になった。



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