若くんがカッコいいという意見には全面的に同意するけれど、残念ながら恋愛対象にはならないだろう。 若くんだって私なんか対象外だと思う。 彼の好みのタイプは『清楚な人』だそうだから。 ちなみに、若くんが好きな人と行きたいデートスポットは『ミステリースポット』らしい。 清楚な女の子をそんな場所に連れて行って何をするつもりなのかと小一時間問い詰めたいところだ。 きっと可愛い女の子が怖がる姿をニヤニヤ見ながら楽しむつもりに決まっている。 酷いよ若くん。 その若くんは勘違いしているようだが、“見える”だけなら一般人と殆ど変わりはない。 祖父は代々続く由緒正しい神社で宮司を務めているが、将来は伯父が継ぐ予定なので、私は跡取り娘というわけではない。 せいぜい繁忙期に他の臨時アルバイト達と一緒に巫女さんとしてお手伝いするぐらいのものだ。 それも特に家業を強く意識してという事ではなく、結婚前に母が巫女として実家の手伝いをしていたため、その代わりにやるようになったというだけの事だった。 両親は神社とは全く関係ない洋館を改造した洋館カフェを経営している。 どちらかと言えば、将来可能性があるのはこのカフェで働く事だ。 愛好家の間ではわりと有名な洋館で、カメラマンやマスコミが取材に訪れる事もあり、一般人相手にもそこそこ知名度がある。 一階はカフェ、庭も解放しており、春夏秋にはガーデンカフェとして賑わう。 二階ではお金と時間に余裕がある富裕層の奥様方をターゲットにした紅茶や花やお菓子作りなどの教室が開かれている。 将来カフェで働きたい女子高生が幽霊退治なんて出来るはずがない。 若くんには是非ともそのへんを理解して貰わなければ。 そんなことを思いながらテニス部の部室に行くと、部室の前で向日くんと会った。 …もしかして怖くて部室に入れないんだろうか。 「七瀬?お前なにやって…」 にゃー。 向日くんの言葉に被せるようにして部室の中から猫の鳴き声が聞こえてきた。 「い、今の…!」 「うん、猫だね。入ってていい?」 「お、おお!?」 ちょっと返事と判断していいか怪しい感じの答えだったけど、私は気にせずノックし、ドアを開いて中に入った。 |