「もう分かってると思うけど、頼みというのはマネージャーになって貰えないかという事なんだ」 幸村くんが言った。 そうくるだろうなと思っていたので、驚きはしなかった。 彼が悩んでいるのは知っていたからだ。 「キミも知っていると思うけど」と幸村くんは苦い顔つきで続けた。 「中学の時は、マネージャーになりたがる子がいなかったわけじゃない。むしろ、他の部よりも希望者は多かったんじゃないかな。でも、残念ながら皆続かなかった」 生憎、軟派な理由でつとまる仕事じゃない。 細かい内容は学校や部活によって異なるかもしれないが、マネージャーの仕事はきついし汚いし危険なものだ。 練習する部員達を微笑みながら木陰で見守るような図を想像していたのだとしたら、とんでもない話である。 炎天下の中でハードな練習をこなさなければならない部員達に比べれば運動量こそ適わないまでも、同じ条件下で球を拾ったり磨いたり洗濯したり干したりドリンクを作ったり作ったドリンクを入れた籠を運んで配ったりタイムを取ったり記録したりと、限られた時間の中で効率を考えて動き回らなければならないのだから、マネージャーの仕事もそれなりにハードだと言える。 「動機は不純だとしても、仕事さえしっかりして貰えればと思っていたんだけど」 「無理でしょ」 「ああ。無理だった」 苦い笑みを浮かべた幸村くんの表情からは、辞めるときにまた一悶着あったんだろうなということが伺えた。 「入部試験をクリアしても、一時的な努力で凌いだだけだから長くは続かない。もって二週間だったよ」 「真面目な子はいなかったの?」 「それが、なかなかね…」 幸村くんは深く溜め息をついた。 「きちんとした考えをもってマネージャーをやりたいと思っている人間には初めから敬遠されてしまうらしくて、仕事が出来そうだと思った子は既に他の運動部に入ってしまっている状況なんだ」 入部の倍率や女子からのやっかみの対象になる危険を考えれば、確かにテニス部にこだわらずに他の運動部のマネージャーになるのが得策だろう。 「苦労するね幸村くん」 「だろう?」 瞳を柔らかく細めて笑ってはいるが、その視線は思わずたじろいでしまうほど強い。 「俺を助けると思って協力してくれないか。俺には…俺達にはキミが必要なんだ」 頼む、と真剣な声音で訴えられて断れる人間がいるなら見てみたい。 こうして私は、立海大附属高校男子テニス部のマネージャーに就任したのだった。 |