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幸村くんに「頼みがあるんだ」と真剣な表情で切り出されたのは、高校に上がって本当にすぐの事だった。
教室ではなんだから部室で話そうということになり、私は部室棟に向かっていた。

まだ午前中のみだから、目につくのは部活動で残っている生徒ばかりだ。
すり鉢状に窪んだ土地にあるテニスコートが見えて来たところで、誰かに名前を呼ばれた。

「七海先輩!」

赤也くんが走ってくる。
その姿を子犬のようだと思ったのも束の間、赤也くんはすぐに真田くんに首根っこを引っ掴まれ、痛そうな音をたてて頭に拳骨を落とされていた。

「い"っ!!」

「このたわけが!」

文字通り雷を落として叱りつける真田くんと、痛そうに頭を押さえる赤也くん。
…なんだか前にもこんな事があったような気がする。

「フフ…赤也は元気だね」

既視感を感じていると、傍らにやって来た幸村くんが笑った。

「グラウンド50周に腕立て腹筋200回。それが終わったら俺が相手してあげるよ。嬉しいだろう?」

人の顔色はこんなに急激に変化するものなのかと驚くぐらい、赤也くんは一瞬で蒼白になった。
早く行け!と真田くんに怒鳴られグラウンドに走っていく。
それを視線で見送った幸村くんが私に向き直った。

「七瀬さんは俺と来て。仕事内容について説明するから」

「あ、は、はいっ」

「ふふ…そんなに緊張しなくていいよ」

幸村くんの後ろについて部室棟に入る。
部室棟の内部は、何というか、運動部独特の空気がある。
その通路を歩いていき、テニス部の部室に着くと、幸村くんは私に中に入るよう促した。

「汚くてごめん」

「そんなことないよ。きちんと片付いてるよ」

そうかな、なんて笑った幸村くんに椅子に座るよう言われて、私は近くの椅子に腰を下ろした。

室内は本当に小綺麗に片付けられている。
ロッカーの中まではどうかはともかく、目につく範囲はちゃんと整頓されていて掃除もしてあるんだなと感じられた。
棚には賞状や盾が並んでいる。
そして、幸村くんが持ち込んだと思われる観葉植物。



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