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突然、ホールの中にざわめきが走ったかと思うと、海が割れるみたいに人垣が真っ二つに分かれた。
そうして出来た道を堂々と歩いて来るのは、幸村精市率いる立海大附属のレギュラーメンバーだ。

いつもの芥子色のジャージの代わりに漆黒の長いマントをなびかせて歩く幸村は、刺繍が施された上品な黒いローブを着ている。
頭に山羊のツノを付けているところを見ると、恐らく悪魔の仮装なのだろう。しかし──。

「…………幸村くんが普通に魔王なんだけど…………」

「違和感ゼロだな」

「宍戸さん、俺怖いです…!」

「びびってんじゃねーよ長太郎。激ダサだぜ。ただの仮装じゃねぇか」

ただの仮装では済まないから恐ろしいのだ。
怯える七海と鳳の視線の先では、歩みを止めた幸村がパーティーの主催者である跡部とにこやかに挨拶を交わしている。

「招待してくれて有難う、跡部。遅れてすまない」

「いや、気にするな。パーティーはこれからが本番だからな。練習か?」

「ああ。後輩を指導していたんだけど、つい熱が入り過ぎてね」

気のせいか、幸村以外の立海陣の顔色が優れない。
皆疲れてぐったりしているように見えるのは直前まで部活に励んでいたせいだろうか。
ただ、やはり切原だけは元気だった。
疲労よりも興奮が上回っているせいかもしれない。

「ヒャーハッハッ!なんすか、あれ!ダサい仮装っスね!!」

「こら、赤也」

「大人しくせんか」

「まあまあ、ハロウィンのパーティーなんですから先輩達も盛り上がっていきましょーよ!」

今夜ばかりは切原のほうが正しい。
幸村が穏やかに微笑んで「赤也の言う通りだよ」と加勢した。

「ハメを外し過ぎるのは困るけど、参加する以上は楽しまないとね」

「幸村部長もこう言ってることだし、楽しまないと損っスよ!」

ああ、とか、うむ、と返事をかえした柳と真田はあまり気乗りしない様子だったが、丸井や桑原は既に食べ物のテーブルに視線が釘付けになっている。
ふらりと仁王がその場を離れていき、柳生がその後を追う。

ふと、遠くの物音を聞き付けたように幸村が視線を巡らせ、離れた場所から彼らを眺めていた七海と

目が、合った。


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