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目が合った瞬間、七海はしまったと思った。
出来ればこっちに来ないで欲しいという願いもむなしく、幸村は真っ直ぐこちらへ歩いてくる。

「こんばんは、七瀬さん」

「こ…こんばんは、幸村くん」

幸村の事が嫌いなわけではないが、注目されるのが苦手な七海にとって、この状況はかなり辛いものがある。
さっきまでは皆それぞれ自分達で盛り上がっていて、何人集まってきてもこちらを見てくる者は少なかった。
しかし、遅れて到着した立海に注目が集まっていた状態で、その中でも一番の有名人である神の子がわざわざ近づいて話しかけたとなれば、招待客達が「あれ誰?」となるのは当然の成り行きだった。

「可愛いね。その魔女の仮装、とてもよく似合ってるよ。凄く可愛い」

「あ、有難う。幸村くんも………怖いくらい似合ってるよ」

「ふふ、有難う」

ついうっかり「洒落にならないくらい似合ってる」と言いそうになってしまったのを慌てて言い替えたのだが、幸村はにこにこと微笑んでいる。
その笑顔も雰囲気もいかにも優しそうなのに、魔王の仮装が様になっているのは迫力とかオーラがあるからなのかもしれない。
さすが王者立海を束ねているだけある。
ただ優しいだけの男では、あのくせ者揃いの部員達の上に君臨するのは不可能だろう。
七海も勿論、彼が見かけによらず怖い部分がある男なのだという事を知っていた。

「幸村くん達は今日も遅くまで練習してたんでしょう?凄いね」

「赤也達後輩が頑張っているからね。指導する俺達も自然と熱が入って、今日みたいに張り切り過ぎてしまう事がよくあるんだ」

幸村は笑顔で爽やかに語っているが、今日パーティーに来ていない他の後輩部員達がどんな状態になっているかを考えると同情を禁じえない。
コートに倒れている無数の屍ならぬ部員達の姿が目に浮かぶようだ。


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