「やあ、観月」 不二が観月に声をかける。 七海は都大会での裕太絡みの確執を思い出してさっと緊張したが、観月は険しい表情になることともなく、穏やかに挨拶を返した。 「お久しぶりですね、不二くん」 「直接会うのは夏以来かな。全国大会の準決勝と決勝戦、観に来てくれてたんだって?裕太に聞いたよ」 「ええ、実に良い試合でした」 都大会での出来事はお互いの心に深く根を下ろしているはずだが、どちらもそんな素振りは見せず、表面上は和やかに会話を続けている。 このやり取りだけ見ていれば、二人の仲が最悪の状態だとは誰も気付かないだろう。 「この会場でも他校の選手をルドルフにスカウトしてるのかい?それともデータ収集が目的?」 「勿論両方ですよ。我がルドルフはまだ歴史が浅い。他校に比べて圧倒的に人材が不足しています。今後の事を考えれば、一人でも多く優秀なプレイヤーが欲しいというのが本音です」 「キミはもう引退するのに?」 「これも仕事の引き継ぎの内ですよ。裕太くん達に少しでも多くのものを残していきたいですからね」 「へえ……随分後輩思いなんだね」 「マネージャーとして当然の務めを果たしているだけですよ。部に関わる事に私情を挟む必要などないでしょう」 「七海ちゃんを傍から離さないのは私情じゃないの?」 不二の痛烈な皮肉に顔色こそ変えなかったものの、続く言葉にはさすがに観月も顔を強張らせた。 「何故、今の流れで七海の名前が出てくるのかわかりませんね」 「そう?よく分かってるはずだと思ったけど、ボクの思い違いかな」 「んふっ、そのようですね」 「ブリザードが吹いて見えるで」と、忍足が七海にこそっと耳打ちする。 七海も同意見だった。 空気が凍えるように冷たいのは絶対気のせいではないはずだ。 |