最近の観月は時々おかしい。 彼のことはよく知っているはずなのに、時々全然知らない男の人のように感じて戸惑うことがあった。 顔は相変わらず女の子よりも綺麗だけど、背も伸びたし、テニスを続けているため筋肉がついて身体つきも大分男の子らしくなってきている。 時々感じる違和感も、身心ともに成長している証拠と言えばそれまでなのだが、置いていかれるみたいで何だか少し寂しい。 そんな風に感じてしまうなんて、観月の言う通り確かに自分はまだまだお子様なのだろう。 ホールを行き交う人々の群れへと視線を戻した観月は、ウェーブがかかった艶やかな髪をくるくると指先に巻き付けている。 見慣れたその仕草をじっと見つめていると、視線に気付いた観月が振り返った。 「何です?」 「ううん、何でもない」 変な子ですね、と笑う観月はいつもの観月だ。 ぴったりくっついているわけではないけど、お互いの体温が感じられる距離。 それはそのまま二人の関係を示しているようだった。 「おや。もう飲み終わったんですか?」 「え?…あ、ほんとだ」 観月に指摘されて初めて自分のグラスが空になっていることに気が付いた。 ぼんやりしている間にいつの間にか飲み干していたらしい。 「ボクが持ってきます。キミはここで待っていて下さい」 空になった七海のグラスをすいと奪い、観月はさっさとドリンクコーナーに歩いていった。 こういう時、紳士的でスマートだなぁと感心してしまう。 観月に限らず、テニス部の男の子達は皆中学生にしては女の子の扱いが上手い気がする。 今からこうなのだから、これからも同級生の普通の男子との差は開いていく一方だろう。 「Trick or Treat」 目の前を通り過ぎていったシーツお化けの集団を微笑ましく見送っていると、不意に死角から声をかけられた。 全く気配を感じなかったことに驚きながら振り向けば、そこにはしなやかな体躯の黒猫が一匹佇んでいた。 「……ねこ?」 「うん。化け猫」 クスッと笑う不二の頭には、猫耳の付いたカチューシャが乗っている。 パーティーグッズのコーナーでよく見かけるあれだ。 ビロードに似た艶がある肌触りが良さそうな素材のぴたりとしたデザインの黒の上下を着て、尻にはちゃんと尻尾もついている。 「七海ちゃんは魔女なんだね。よく似合ってるよ。可愛い」 「あ、有難う…」 不二はにこやかに微笑みながらもう一度「Trick or Treat」と繰り返した。 「お菓子をくれないと悪戯しちゃうよ」 「はい、クッキー」 「あれ?持ってたの?残念、悪戯したかったのに」 笑顔でそう続けた不二に、七海は強張った笑顔を返した。 |