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歯牙にもかけない、というのはこういう事を言うのか。
七海は苦々しい思いで試合を見守っていた。

一応最低限の礼儀は守っているけれど、ルドルフの事を格下だと思っているのは明らかだ。
特にそれがはっきり態度に表れているのが二年の切原だった。
たびたび馬鹿にしたりする発言をしては柳や幸村に窘められている。
同じ二年生で、これからのルドルフを背負っていく裕太などは、切原への不快感を隠しきれず、ギスギスした空気が辺りに漂っていた。

その中で始まった、赤澤と幸村の対戦。

「これも全てデータ収集の為ですよ」

七海の隣の観月が言った。

「ボク達三年生はもう引退です。来年以降の聖ルドルフの勝利の為にも、少しでも多くの情報を裕太くん達に残さなければいけませんからね」

「はじめちゃん…」

「それは赤澤も解っているはずです。だから文句も言わずに幸村精市の対戦相手を引き受けたんでしょう。テニスプレイヤーとして、より強い相手と戦って自分の力を試してみたいというのもあったかもしれません」

「うん、わかる気がする」

観月や赤澤達が、裕太達に少しでも多くのものを残してやりたいと考えていることを七海は知っている。
自分はマネージャーで、彼らに直接役に立つものを残してあげられるわけではないけれど、出来るだけ詳細を記した引き継ぎノートを作ったり、備品の整備をしたりして、七海も自分に出来る事をしようと努力していた。

「でも、それははじめちゃんが幸村くんと対戦しなかった理由にはならないよね」

「んふっ。直接自分が対戦するより、コートの外から観るほうが客観的なデータを集められるんですよ」

七海には解る。
赤澤はデータを取るための生け贄として差し出されたのだ。

早くも視覚を奪われたらしい赤澤が手探りでラケットを振り回し始めたのを見て、七海は深く溜め息をついた。


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