普段使っているコートとは違う感触のエメラルドグリーンのコートの上を七海は小走りで進んでいく。 待機していた部員達に立海テニス部の到着を知らせる役目はすぐに果たせた。 今は探し物をしているところだ。 「山田くん、ベンチに置いてあったスコアノート知らない?」 部室や用具倉庫から必要な道具を出して来て準備していた二年生を掴まえて尋ねると、彼はハッとした顔をした。 「スンマセン、俺です!観月先輩に言われてベンチを拭いてたときに、汚れるといけないんで審判台に上げておいたんです」 どうやら彼は潔癖症に近い綺麗好きな観月の指示でベンチを雑巾がけしていたらしい。 申し訳なさそうに謝る彼に、七海は笑顔で気にしないでいいよと告げてから、一番奥のコートの審判台に向かった。 「あ、あった」 言われた通りの場所に見覚えのあるノートを見つけ、ほっとする。 手を伸ばして取ろうとしたものの、高い審判台の座面の真ん中に置かれたノートには背伸びをしてもまだ少し指が届かない。 だからと言って、ノートを取るためにわざわざよじ登るのも悔しい気がした。 何だか負けた気がする。 (あと、もう、少し……) ノートの端に指が触れたと同時に、突然風を切る感触がして身体がふわりと浮き上がった。 「ふあっ!?」 すぐ目の前にノートがある。 驚きのあまり変な声をあげてしまってから、誰かに両手で腰を掴まれて持ち上げられたのだと気が付いた。 「届いた?」 笑い混じりの声が耳に届く。 男性にしては少々高めの、耳に心地良い透明感のある声だ。 声がした位置からしてかなり身長が高い。 持ち上げてくれている人物の意図に気づいて慌ててノートを手に取ると、腰を掴んでいた腕にそっと地面に下ろされた。 「あ…あの、有難うございました」 振り返ってぺこりと頭を下げる。 「どういたしまして」 柔らかい微笑を浮かべて自分を見つめている人物を目にした途端、七海は固まった。 それは立海大附属中学校の男子テニスの部長、幸村精市だった。 |