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「驚かせてごめん。先に声をかければ良かったかな」

困ったように少し首を傾げて幸村が言った。
青みがかった黒髪が柔らかく揺れて、綺麗に整った顔立ちを際立たせる。
どこか儚げな印象を受ける、穏やかで優しそうな雰囲気の少年だ。

七海は従兄の観月とともに幸村精市の試合を観戦したことがある。
すごい、の一言だった。
『神の子』というあだ名が付くのも納得の桁外れの強さと、王者立海を背負うトップとしての凄まじい迫力。
そして完璧なプレイ。
正直なところ、完全に気圧されてしまって恐怖さえ感じたくらいだ。
今目の前で微笑んでいる彼は、コートの中で見た幸村精市とはまるで別人のように見えた。

「キミはルドルフのマネージャーさんだろう?」

「はい。七瀬七海と言います」

「俺は幸村精市。よろしく、七瀬さん」

手を差し伸べて握手を求められたので、おずおずと自分も手を出すと、意外なほど固い感触のしっかりした手に力強く握り返された。
手を握られている時間が少し長く感じられたのは、きっと初めて間近で『神の子』と対面したことで自分が緊張しているせいだろう

「ずるいな、観月。こんな可愛い生き物を隠してたなんて」

「…別に隠していたつもりはありませんが」

「そうかな?」

まったく信じていない様子の幸村に、観月がため息をつく。

「挨拶が済んでいるなら、紹介する手間が省けましたね。そちらはマネージャーがいないということでしたので、何かあればボクか彼女に言って下さい。出来る限り要望に応えられるよう準備をしてあります」

「ああ、助かるよ」

「ベンチはここと向こう側のを使って下さい。荷物はまとめてそちらに。休憩時にはこちらでドリンクは用意しますので、自分達で持って来た物は予備に回して頂いて結構です」

説明している間に全員が到着した。
立海のテニス部員の後ろにはルドルフのメンバーの姿も見える。
七海が会釈をすると、立海レギュラーの何人かが同じように会釈を返してくれた。

「行きますよ、七海」

説明を終えた観月が七海の背中にぽんと手を添えて促す。

「また後でね、七瀬さん」

「はい」

幸村ににっこり微笑みかけられたので七海もつられて笑顔で返事をしたら、横から観月に軽く睨まれた。
わけがわからないまま並んで歩き出す。

ルドルフ側のベンチには既に皆集まっていた。
最初に試合をする木更津達はアップも済ませているようだ。
その木更津は、クスクス笑って観月を迎えた。

「すごい顔になってるよ、観月」

「まったく……嫌な予感ほど当たるというのは本当ですね。しかも、よりによって一番厄介な相手に目をつけられるなんて…」

「これもシナリオ通りってやつだーね」

「こんなシナリオは要りません!」

ぴしゃりと言った観月に、柳沢と赤澤がやれやれといった風に顔を見合わせた。


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