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食事が終わった後は皆思い思いに過ごしていた。
泳ぐ人もいれば、何処からか持って来たビーチボールで遊んでいる人もいる。
食べてすぐ動くのは良くないという派の人達はシートやベンチに座って寛いでいた。

はじめちゃんもその一人だ。
私が遊びに行くと、彼はプール際に並べられたシートのひとつに座っていた。
手には私も見た事がある小さなボトル。

「あ、日焼け止め?」

「ええ、今の内に塗り直しておかないと後で困りますからね」

「そっか、大変だね…」

繊細なはじめちゃんの肌は紫外線に弱い。
日に焼けると真っ赤になってしまうため、素肌を晒すときは死ぬほど日焼け止めを塗る必要があるのだ。
今日もウォータープルーフの日焼け止めを使っているが、万が一の事を考えて水に入る度に念のため塗り直す事にしたのだろう。

「はじめちゃん、背中塗ってあげようか?自分じゃ塗りにくいでしょ」

「そうですね…お願いします」

少し考える素振りを見せてから、はじめちゃんは肩からするりとシャツを滑り落とした。
ちょっと……色っぽいんだけど……どうしよう……。

でもここで私が変に意識してぎこちなくなったらはじめちゃんだって気まずい思いをしてしまうだろう。
私は動揺を抑え込んで彼の白い背中にぺたぺたと日焼け止めを塗り込む作業に集中した。

「相変わらず白いねぇ」

「日光に当てないようにしていますから」

いや、この輝くような白さは単純に日焼けしないからというだけで作れるものじゃないはずだ。
肌すごく綺麗だし。
相変わらず美白な肌を羨ましく思いながら日焼け止めを塗っていると、

「ずるいな、観月だけ」

後ろからそんな声がかけられた。
振り返らなくても誰なのか分かる。
振り返るとやっぱり不二くんだった。
しかも幸村くんも一緒だ。

「いいじゃないか、不二」

幸村くんが穏やかな声で言う。

「不二だって弟が困ってたら手伝ってやるだろう?それと同じことじゃないかな。俺も妹がいるからよく分かるよ」

手のかかる兄弟扱いされたはじめちゃんはムッとした顔で幸村くんを睨んだ。
しかし、当の幸村くんは穏やかに微笑しただけだった。

「さすが本妻の余裕だな」

「揺るぎねえぜ幸村くん」

桑原くんと丸井くんが感心したように言い交わしている。
もはやそれに突っ込む気力もない。

「でも、確かに少し妬けるね」

「えっ」

「俺も塗って貰っていいかな?」

「う、うん、もちろん!」

この流れで断ったら、なんでどうしてになるに決まっている。
「ボクのを使って構いませんよ」と気前よく日焼け止めを貸してくれたはじめちゃんからボトルを受け取り、私はシートに腰掛けた幸村くんに向き直った。
幸村くんはにこにこして待っている。

「…幸村くん…」

「うん?」

「後ろ向いてくれないと背中塗れないよ」

「えっ、前はやってくれないのかい?」

「背中以外はセルフサービスになっております」

「えー」

「えーじゃなくて!」

周りの人達がニヤニヤ、あるいはやれやれと言った風にこっちを見ている中で全身にご奉仕する勇気は私にはない。
そうしている間にも、横から「次はボクの番だよ」と不二くんが言っているのが聞こえてきた。


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