「これより《ドキッ!丸ごと水着!男だらけの水泳大会》を開始する!」 主催者である跡部くんのそんな宣言により、開会式は終了した。 いよいよ水泳大会の始まりだ。 「なんか、昭和のアイドルがやってた水泳大会みたいな名前だよな。うちの爺さんが録画して見てたぜ」 「やっぱポロリもあんのかな」 「あっても嬉しくねーよ。野郎ばっかじゃねぇか」 「ポロリどころかモロリがあるかもな」 「貞治か」 「『危ない!乾!』つって手塚が脱がすのかよ…見たくねー」 「七瀬は見たいか?」 「それ、見たいって言ったら私完全に痴女扱い決定だよね」 名前もアレだが、実際の競技内容も一昔前に流行ったというアイドルの水泳大会のそれみたいだ。 浮島バトルとか騎馬戦とか。 当然だが、男子テニス部のレギュラー達を集めて行われる水泳大会なので、参加者は全員男子だ。 可愛い女の子がキャッキャしながら水遊びするのとはわけが違う。 ポロリがあったとしても喜ぶ人は誰もいな……金色小春くんぐらいのものだろう。 「俺のなら後で見せてあげてもいいけど」 「いや、いくないよ幸村くん」 「ふふ…」 幸村くんの冗談はいつも心臓に悪い。 クラスの女の子はともかく、他の幸村くんファンはこんなお茶目な彼を見た事はないんだろうなと思うと、多少心臓にダメージを受けてもからかわれる価値はあるのかもしれない。 素の自分を見せられる『身内』として扱って貰えるだけ光栄なんだと思う。 「ジャッカルはもう行ったのかな?」 「うん、次の種目の集合場所に向かったよ」 幸村くんはそうかと頷いた。 「この大会の初戦だ。ジャッカルには必ず勝って貰わないとね」 「うん」 私も全力で応援しよう。 ちなみに幸村くんは水上騎馬戦で確実に勝ちに行く手筈になっている。 はっきり言って負ける気が微塵もしない。 プールサイドのベンチに座る幸村くんの横で水面を見つめていると、最初の競技に参加する選手達が入場してきた。 桑原くんもいる。 彼は私達のほうに向かって軽く手をあげて見せ、スタート位置についた。 笛が鳴り、選手が次々にプールに飛び込む。 最初の水飛沫が上がったと同時に観客席はわっと歓声で満ち溢れた。 水の音と水の匂い。 テニスコートとは環境が違うけれど、場を満たす熱気や気迫は試合の時のそれに似ている。 「勝負あったな」 傍らに立つ柳くんが呟いた。 彼の言った通り、桑原くんが一番だ。 水から上がった桑原くんがガッツポーズを決めているのを見て、幸村くんがふっと唇を綻ばせた。 |