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開会式が始まる前に、各校のマネージャーを集めての打ち合わせが行われた。
レギュラーはレギュラーだけで別の場所に集められて跡部くんから説明を受けているようだ。

遠足のしおりみたいにこの水泳大会用に作られたしおりが私達には事前に配布されていた。
それに添って進められていく氷帝のマネージャーさんの説明を聞きながら、必要と思われる内容をメモ帳に書き込む。
私の隣では、中学の時と同じく聖ルドルフのマネージャーを務めているはじめちゃんが、時々前髪を指にくるくる巻き付けながら説明を聞いていた。
あの跡部くんも認めるぐらい優秀な頭脳の持ち主である彼にはメモ帳は必要ない。
情報は全て彼の脳みそに刻み込まれていくのだ。
はじめちゃんは私の自慢のいとこだ。


「それにしても凄い施設ですね」

ミーティングが終了すると、はじめちゃんが辺りに目を向けてそう言った。

「ほんと凄いよね」

私は即座に同意を示した。
この『ワイルドブルーアトベ』は全天候型の屋内プールという触れ込みだが、もう殆どスパリゾートと呼んでいい規模の施設だ。
CPU制御により人工の波も作れるメインプールの他に、大小様々なプールやジャグジーまであるらしい。
ゆっくり遊んでみたいところだが、『水泳大会』と名がつく以上、純粋に水遊びを楽しむわけにもいかない。

「今日は無理だけど、今度別の機会に遊びに来たいな」

「その時はボクが付き合ってあげますよ」

「うん、一緒に遊ぼうね!」

嬉しくなってそう返した私に、はじめちゃんは何故か苦笑を浮かべてみせた。

「キミは小さい頃から変わりませんね」

「えー…そんなに成長してないかなぁ。胸はだいぶ育ったと思うよ。ほら」

「な、何を言っているんですかっ…!そう意味じゃありません!」

赤くなったはじめちゃんが目を逸らす。
でも今見たよね。間違いなく瞬時に目でチェックしてたよね。

「あ。赤澤くんだ。おーい!」

「おお、七瀬。そっちも終わったところか」

レギュラー達のミーティングも終わったらしく、赤澤くんがこちらにやって来た。
向こうには手塚くんや白石くん達もいるから、皆一緒だったみたいだ。
幸村くんが振り返りながら口パクで「先に行ってるよ」と言ったのが見えたので、私も彼に頷いてみせた。

「あのメンバーの中で………ううん、何でもない」

「言いかけてやめるほうが残酷ですよ、七海。赤澤だけオーラがないとはっきり言ってやりなさい」

「こ、こら、はじめちゃん!」

ストレートに言い切ってしまった従兄を、めっと叱る。
本当のことを言って何が悪いんですと悪びれた様子もないはじめちゃんに代わり、私は赤澤くんのフォローに回った。

「ごめんね赤澤くん。気にしないで。部員からの人望の厚さやリーダーシップなら赤澤くんも負けてないよ。ルドルフをまとめてるのは赤澤くんなんだから」

「はは、有難う、七瀬。俺なら平気だぞ。観月の厭味には慣れてるからな」

大してショックを受けた様子もなく朗らかに笑う赤澤くんは本気で包容力があると思う。
はじめちゃんの歯に衣着せぬ率直な意見という名の暴言や嫌味を、「観月だから仕方ない」といった感じで受け入れてくれる彼は実にいい人だ。
ルドルフのメンバーもみんな本当にすごくいい人だとつくづく思った。


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