冷房をつけて座学の勉強をしていたら、いつの間にか居眠りをしてしまっていたらしい。
気がつくと、机に突っ伏して寝ていた。
意識はあるけどまだ半分夢の中で、このままもう少し寝てしまおうかどうか悩む。
体温が低下したせいか少し肌寒い。起きて冷房の温度を下げればいいのだが、それも億劫な気がした。
どうやら自分で思っていた以上に疲れが溜まっていたようだ。

そうしてぐずぐずと眠りと覚醒の合間を漂っていると、不意に誰かに身体を抱き上げられた。

「こんなところで寝ていたら風邪をひくよ」

傑くんだった。
彼のことだからノックをしたはずだが気がつかなかった。

傑くんは私をベッドまで運んで降ろしてくれた。
傑くんの息遣いが近付く気配に、咄嗟に手でガードする。目を開けると、思っていたよりももっと近くに端正な顔立ちがあった。
傑くんの口元を塞いでいた手をやんわり外される。

「私にはさせてくれないのかい?悟には許したのに?」

恋人の不実を詰るような口調に、つい言い訳がましいことを言ってしまう。

「だって、傑くんはあの子としたでしょ」

「彼女とは何もしていないよ。嫌悪感が先に立って何も出来なかった」

中学時代の元友人の話を持ち出すが、あっさりと否定されてしまった。
熱を帯びた眼差しを至近距離から注がれて、いたたまれないような気持ちになる。

「私の全ては君のものだ」

甘い美声でかき口説くように告げられた言葉に頬が熱くなり、心臓がどくどくと音を立てた。

「初めてのキスも、それ以外も」

囁いた傑くんの唇が私の唇に重なる。
それは、ただひたすら優しい優しいだけのキスだった。

「や、……」

思わず拒絶の言葉を漏らしてから後悔する。傑くんを傷つけたくはなかった。
だが、傑くんはフッと笑ったかと思うと薄く開いた唇の隙間から舌を侵入させてきた。
口の中を直に舐められて呆然とする。

ちょ、これは本気でダメなやつ!

「んー!んー!んー!」

傑くんの逞しい胸板をぐいぐい押し退けると、意外にも傑くんはすぐに引き下がってくれた。

「残念。流されてはくれなかったか」

「傑くん!」

「ごめん。調子にのり過ぎたね」

艶かしい仕草で濡れた唇をぺろりと舐めた傑くんの整った顔が離れていく。
上半身を起こした傑くんは、真っ赤に染まった私の頬をさらりと撫でると、笑って言った。

「男は皆、狼なんだ。食べられないように気をつけないといけないよ」

私にこんなことをするのは傑くんか悟くんくらいのものだ。
そのたった二人が問題なのだけど。
気をつけようにも、私よりも一枚も二枚も上手な彼らに振り回されてばかりだった。

「明日、10時に寮の前で集合。四人で任務だそうだ」

傑くんが言った。

「そんな可愛い顔をしていたら、私とキスをしたことがすぐバレてしまうよ。明日までに何とかしておかないと。それとも、やはり続きをしようか」

「傑くんの意地悪!」

ちなみに、隣の部屋の硝子ちゃんには何もかも筒抜けだった。


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