「そうか、ザンザスが並盛に……」

所変わってイタリアでは、ボンゴレ本部である城の一室でボンゴレ9代目が部下からの報告を受けていた。

「先を越されてしまったようだな」

「申し訳ありません」

ボンゴレを統べる老人の声はあくまでも穏やかなものだったが、部下は冷や汗をかいて深く項垂れた。
よりによって、という思いが強い。
ザンザスはこの9代目の嫡子であるとはいえ、二度に渡ってクーデターを試みた危険分子でもあるのだ。

「予定変更については既にキャバッローネのディーノ様にお伝えしてありますが、改めて真奈様の奪還に向かって頂くようお願いを──」

「いや。その必要はない」

9代目は、あろうことか微かに微笑を浮かべて部下の言葉を遮った。

「いずれにしても、今夜のパーティーにはザンザスに私の代理を頼むつもりでいたから構わんよ。彼女が本気で嫌がっていないのならば、わざわざ他の誰かを差し向ける必要はない」

「は、ですが……」

「それに、こう言ってはおかしな話に聞こえるかもしれないが、私はむしろ喜ばしいことだと思っているのだよ。家光は渋い顔をするだろうがね」

「はあ……」

機嫌よくそう言った9代目を前に、部下は内心首を捻る。
彼にはこのボスの真意がさっぱりわからない。
しかし、こんな大組織のトップともなると、自分には想像もつかない深遠な考え方をするのだろうとも思う。

改めてボンゴレ9代目の顔を窺うと、老いたボスは驚くほど穏やかな表情で窓の外を眺めていた。



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