(なんだろう……?)

突然妙な寒気に襲われ、背筋がぞわりとする。
夜風に冷えたせいではないそれは真奈を不安な気持ちにさせた。
嫌な予感がする。

頭の奥で警報が鳴りはじめたのを感じた真奈は水音が聞こえる方向へと足を向けた。

段差により一段高くなった場所と低い場所にそれぞれ形と大きさの違うプールがあり、その中の一つ、真奈から見て一番遠い場所にあるプールから水音は響いてくる。

照明のせいでちょうど影になってしまっていてよく見えないが、小柄な黒い人影がプールの中央あたりに浮いているのが見えた。

──違う。

それを見た瞬間、心臓が大きくどくんと跳ねた。
浮いているのではない。溺れているのだ。
人影はあまりにも小さい。子供が、溺れている。

「誰か──!」

人を呼びに行こうと向きを変えかけたとき、突然水音がやんだ。

ハッと振り返れば、力尽きた小さな手が水の中に沈んでいくのが見える。

(どうしよう…!)

迷ったのはほんの一瞬だった。
救難の基本から言えば、たとえ相手が小さな子供だったとしても、溺れている人間を泳いで助けるのは非常に難しい。
一番確実なのは助けを求めることだと解っている。

しかし、頭の中で鳴り響いている警報は今や完全に赤信号に変わり、一刻を争う事態である事を真奈に伝えている。
助けを呼びにいっては間に合わないと訴えている。

真奈は自分の超直感に従い、走っていってプールに飛び込んだ。



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